「庭宇宙」 01/07/17
45年前から私はたった一人で三反の荒れ地に立ち向かい、その2年後から植樹をはじました。そのわけは後日にまわします。
三反百姓という「貧しい農家」を表す言葉がありますが、この三反の土地は四角形ですが高低差が9メートルもあり、石ころの多い痩せた赤土でした。農業では生きていけそうにありませんし、生かし方を真剣に考えました。
先ず家屋をつくる場所を決め、その整地をかねて開墾し、それまでの間は畑として使うことにしました。中庭となる場所、燃料になる木を植える場所など夢を広げ、苗木を植えました。社会人となった翌年に住宅金融公庫をつかって小さな家をたてました。その次の年、両親はそれまで住んでいた家屋敷を売って隣に家を建て、越してきました。当初は手入れが行き届かなかったせいと山裾のおかげで蛇をはじめとするさまざまな野生動物が住みついたままでした。
30年ほど前に妻はこの空間に飛び込みました。蛇を見ると卒倒しそうな人でしたが見事に引力圏に留まり、今では蛇の顔を見分け、庭の女主(おんなあるじ)のようになっており、「森の精の小夜さん」と呼ぶ人が現れるまでになっています。
山裾の土地ですから湿っけています。その水分を暗渠で抜き、木造の家を守っています。抜いた水は捨てません。下手に設けた円形の水槽に溜め、庭のオアシスにしています。トイレは水洗ですが、屎尿は下手に設けた大きな四角いタンクに溜め、肥料として生かします。風呂の残り湯は別の経路で下手に流れ、小石の詰まった土管などを通って浄化され、六角形の水溜に蓄って畑の水やりに使われます。
庭には、菜園、ミカンやブルーベリーなどの植わった果樹園、燃料用のクヌギ林、竹林、檜林などがありますが、現実は渾然一体となっており、青大将を頂点とした生態系を維持しています。キアゲハの幼虫はパセリとか人参の葉を好みますが、庭には野生化した三つ葉やトウキという薬草も生えていますから、それも餌にして繁殖しています。つまり、この庭には何百種もの小動物と何百種もの植物が自生し、楽園のようにして暮らしているわけです。もちろん彼らは人間のように所有権などは主張せず、「本当の顔」だけでで生きています。だから私たち夫婦は「庭宇宙」と呼びたくなるのです。
夫婦二人で庭宇宙を維持管理しているわけですが、私たちはその一部になろうとしています。逆に、庭は私たちの体の延長といってもよいのかもしれません。私たちが炭酸ガスをはきだしますと、植物は酸素に変えたりフィトンチッドを作って返してくれます。私たちは庭でとれた野菜を食べ、屎尿を庭に帰します。庭は外部の肺であり、外部の消化器官のようなものです。その循環の一部として妻は留まったわけです。今では多くの人が、特にこの庭に逗留した人は、「人を優しく包み込み、同化してしまうような庭だ」と言ってくださるようになりました
1986年の春、人形工房や喫茶コーナーのある建物が完成した時に、「アイトワ」という会社を立ち上げ、庭宇宙を一般に開放しました。
現在は、例年通り6月20日から1カ月の夏期休暇に入っており門扉を閉じています。その間に、妻は人形創作に熱中したり私の助手として庭の手入れをします。次回はその様子をお知らせします。
もちろん近いうちに、庭宇宙にある建物などの説明もします。
人形工房や喫茶コーナーは半地下構造です。地下部分の閉塞感をなくすためにサンクン・ガーデン(沈んだ庭)を作りました。地下構造にした理由は井戸のように夏は涼しく冬は温かくしたかったからです。その狙は見事に的中しました。その後、人形工房を広げるために、人形展示室のある新たな半地下構造の建物をつくっています。こうした2棟の建物の他に、庭には二つの小屋と一棟の温室、そして私たち夫婦や両親の居宅があります。
もちろん 居宅部分は一般には開放していません。
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