「北米出張」01/09/17

 クオリティー・オブ・ライフをテーマに、米西海岸を駆け足で訪ねてきました。帰国を二日遅らせていたら大変な目に遭っているところでした。
 環境の時代を視野に入れた農業問題や家屋問題も調査の対象でしたから、ここでは農業問題に少し触れたいと思います。

 農業問題といえば、量の問題と質の問題が頭に浮かびます。あと20年もすれば地球人口は80億人を超えます。他方、限られた地球の農地は砂漠化や表土流出などで減少しており、単位当たりの収穫量も限界が見えています。これまでの単収を上げる農法は農薬や化学肥料、あるいは機械や水を多用しましたから安全性や持続性の問題が深刻です。次の手と考えられている方法は遺伝子の組み換えですから不気味です。「このままでいいですか」と叫びたいし「もうひとつの生き方を求めて」模索したくなって当然でしょう。アメリカなどは食料自給率が100%を超える国なのに、市民は量の問題を克服しようとしているような動きをしていました。

 わが国は食料自給率が40%を切っており、食の面では最も深刻な先進工業国です。だからピタッと輸入が止まったら半年で半数の国民が餓死する可能性もあるとのシュミレーションを見たことがあります。いかにあるべきか考えさせられます。

 バンクーバーではシティファーマーを訪ねました。サンフランシスコに移動した後は、バークリーにあるエディブルスクールヤードやモントレイ・マーケットを、サウサリートではゼンセンターを訪ねたり、夕食をサンフランシスコで人気のあるグリーンレストランでとったりしてきました。
 シティファーマーは、市街地の遊休地を菜園として生かし、生ゴミを肥料にしてゴミ減量に貢献しようとする運動と言ってもよいでしょう。トマト、ジャガイモ、ブロッコリー、トウモロコシ、レタスなどが花やハーブと混菜されて育っていました。家庭からでる生ゴミをコンポストにする様々な工夫もしていました。
 航空から見た市街地を次第に拡大すると、裏庭などが浮かび上がってきました。この芝の多くがやがては野菜に変わるだろうとの意見に首を縦に振りました。同じ水を使うなら、ゴミを減らし、食料を確保し、家庭を明るくするべきだとの意見です。

 エディブルスクールヤードは、荒れた中学校が有機農業でよみがえった話です。荒れた子どもの共通点として食生活に問題があることに気付いた人が音頭をとって、学校の一角で生徒に菜園作りをさせたところ、生徒の情緒が見違えほど安定し、建設的な生徒となり、落書きやガラスを割るようなことがなくなったことで知られます。この6年間で5度目の訪問でしたが、その度に新しい試みが施されています。先生だけでなく近隣のボランティアの人達と一緒に、安心して食べられる食材を作り、調理をし、一緒に食べる、たったそれだけのことなのに、生徒と学校がよみがえった訳です。

 ゼンセンターでは60人の修行者が有機栽培でさまざまな野菜などを作っていました。グリーンレストランをはじめ、自然食品スーパーなどに卸し、その収益金でセンターを維持していました。修行者は30年来の人もおれば、3カ月めの人もいました。

 アメリカでは着実に有機栽培農業が普及しています。それは収量よりも持続性と安全性を期待してのことですが、いずれはアメリカも輸出余力がなくなるでしょう。そこまで農業問題はきています。それに備えた心構えが必要だ、実践は急げれば急ぐほどよい、との思いを深めました。


ソーラーリビングシステムの主建物。壁の芯はわらを固めたもので外に土を主とした壁土で塗り固めるなど様々な素材の熱容量や熱伝導率なども生かして、砂漠のような立地でありながら冷房施設なし。暖房は薪ストーブで済ませています。
樹齢2000年の赤杉もある森も散歩しました。移植者はこうした森林の95%を伐採し繁栄の礎を作りました。今は厳格な保護に立ち向かっています。

ゼンセンターで農作業に従事していた修行者。次の時代、環境の時代は日本に学ぶところが多いと言います。「足を知る」がその神髄でしょう。これまでアメリカは資源は無限にあると考え持続性のない開発を繁栄と見てきたとの反省の声がよく聞かれます。食の面では少なくとも、日本はそのおこぼれに縋っていたのかもしれません。
ゼンセンターも農作物を納入しているエコロジカルな食品スーパー。農作物はすべて裸売りです。パスタや油も各人が好きなだけ取って買える量り売りを採用しています。一人でも不衛生なことや身勝手なことをする人がいたら危険きわまりなく採用できない商法です。環境問題とはこうした一面も含んでいます。

近郊住宅を上空から見た光景。この緑が芝から野菜やハーブに変わり生ゴミが肥料になる運動が繰り広げられている。それは土と会話できる人を増やす運動であり環境の世紀への備えだと私には見えました。


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