「北帰行」01/12/11

 先週の日曜日、西陣の友人がお嬢さんとその友だちを連れて、「庭で練習をさせてやってほしい」と訪ねてくれました。お嬢さんはトランペットを、その友だちはフルート持参です。見晴らしのよい野良小屋を提供しました。庭の南面のあるなだらかな坂道の中腹にあります。奥まった所ですから観光客を気にせずに池を眺めながら吹けるでしょう。

 頃合いを見計らって、友人と4人でお茶を飲むことにしました。喫茶から出前をしてきた妻に、「お味噌、大丈夫だった?」と尋ねると、「大丈夫ですよ、蓋をしてますから」と上手く応えましたが、若い二人には通じない冗談だったようです。実はその朝、妻は味噌壺だけでなく初めて日の菜の漬物樽の蓋も取っています。まだ少し塩がなれていませんでしたがパリッとした日の菜の浅漬けの感触を楽しむことができました。2月中旬には遠路泊まりがけで訪ねてくれる人たちがいますが、その頃が古漬けを楽しむ最後のチャンスでしょう。今年はスグキ菜の成長も順調ですから、スグキの漬物も味わってもらえるかもしれません。スグキは重しのかけ方と発酵具合いが秘訣ですから、漬物蔵を持たない者には難しいのですが、妻は久しぶりの挑戦に今から心をはやらせています。

 ヒョッコリと紋別の酪農家の知人が立ち寄ってくれました。一昔前に妻と一緒に紋別を訪れたことがありますが、その時に紋別の友人から紹介された人です。何年か前に一度わが家に泊まってもらっています。学生時代は京大の探検部で活躍したので関西にも友人が多いのでしょう。実は、狂牛病以来、特に2頭目が出てからとても心配していた人ですが元気そのものでした。「俺は草いっぱい食わせてっから大丈夫だ」「だからって、俺の牛は大丈夫なんて言わないよ。どこでなに食ってっか分かんないもの」。だけど「みんなやめてく(廃業していく)から考えられんほどうまくいくよ。草がいっぱい手に入るんだから」との返事でした。牛も幸せそうだし、知人も嬉しそうに見えました。だが、必ずしもそうではなかったようで、「息子に譲ってね」「見てない方がいいんだ。見てっと文句言いたくなっから」とのことでした。わが家では風除室を作っている最中でしたから私も同じ心境になっていました。昼になるとセメントを塗っている途中でも若い左官は手を休め、食事にします。練ったセメンならまだしも、ほんの2〜3分もあれば塗りきれそうなコテ板に取った分まで半分ほど残して放りだしています。「セメントが乾くだろう」と、紋別の知人は心配し「近頃の人は、セメントや牛のことより自分のこと先に考えっから」と嘆きました。だが私は、それは「社会の問題だ」と応えました。「セメントはいかに塗られるべきかよりも、時間当たりいかに均質に広く塗るか」を世間が評価するからではないか。牛にしても、牛のことは考えず、いかに早く大きく美味い肉が安くなど、人間の都合だけで競ってしまうからではありませんか。それはともかく、どうして今頃関西にまでと思いましたが、帰り際に「アイヌ民族伝統捕鯨復活友の会」というチラシを取り出し、元紋別に「アイヌ文化をよみがえらせたいんだ」と爽やかな笑い声を残し、リュックを背に北へ帰って行きました。

 夕刻、唐辛子の木をとりに畑に出て、ついでにクヌギ林の下草を刈ったり枯れた茗荷を取り除いたりしていたところ、再生中のクヌギの台木が病気にかかっていることを発見しました。多分クヌギにとっては悪しき菌の一種がはびこったのでしょう。放っておけばその部分の細胞が死に、やがて腐ってしまいます。その日の、日のある間の最後の仕事はクヌギの治療、日が落ちてからの仕事は唐辛子の整理となりました。

畑で使う竹を保管したり収穫物を干したりする野小屋の一角で二人は練習を始めました。喫茶から一番はずれた所にあったからでしょうか喫茶のテラスに流れてくる音色がとても良い雰囲気を醸し出していました。

悪い菌にやられたクヌギ。伐採した切り株が菌にやられています。切り株からふいた芽が大きくなっています。
手前の細い方の中程に瘤のようなものが見えますがそれはカミキリムシの幼虫の鉄砲虫が入いり中から口をふさいだかさぶたです。


鉄砲虫のかさぶたを取ってみると大きな穴があいていました。
切り株についた悪い菌が相当はびこっていました。


剥ぎ取った悪い菌。ビーフジャーキーの様に見えますがスポンジ状です。キノコの菌の一種かもしれません。
名前やその種類などは知りませんがこれでよいという治療方法は長年の経験であみだしたつもりです。
はびこった菌を剥ぎ取って石灰硫黄合剤を少し薄めて塗っておけば治療は完了です。放っておけば菌にやられた部分の木の細胞が死にやがて朽ちてしまいます。
トウガラシの木の整理を始めたところ。奥がトウガラシの木の枝、手前左が佃煮にするために取った葉。
右がトウガラシ。両手に山盛り一杯の葉が佃煮にすると片手の掌に乗る程度になってしまいます。
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