「お茶も作るか」  02/01/28


 熊本県の水俣から好青年を迎えました。農家の長男で、父の手助けから始まった農業に打ち込んでいます。この「紅茶で、この焼酎を半々に割るとお茶のようにスイスイ飲める」といって焼酎と手作りの「紅茶」をお土産にもらいました。実は、その3日前に、水俣市にすむ知人から電話があり、「ニッキの木を見せたい」から若者に行かせる、と知らせがありました。年賀状で「ニッキ」が大きくなったと知らせたからでしょう。私は6年前にも水俣を訪ねており、その折りにニッキの苗木をもらって帰っているのです。

 かつて水俣には二本の川が「X」状に交差して流れており、地名「水俣」の由来となっています。その下流の一方をある時の洪水をきっかけに埋め立て、工場用地にした企業があります。この地名の由縁を破壊し、Y状の川にした企業が、水俣の名を世界的に鳴り響かせたわけです。このY状の川の一方の上流と棚田など「なんとも美しい光景」を案内をしてもらった人の家に、ニッキの大木がありました。その実生(みしょう)の苗をもらって帰ったのです。それが今では、背丈の2倍以上に育っています。

 訪問を受けた青年は、私の記事を読んでくれたようです。農文協の雑誌『現代農業』が一昨年8月に組んだ特集号『日本的ガーデニングの進め』に載った『エコライフ・ガーデン』という記事です。その読後感をたまたまニッキの苗をくれた知人に話し、「その男なら知ってる」わが家の庭からニッキの苗木を持って帰った。電話してやるから「見に行ってこい」ということになったようです。だから話は弾みました。

 一般論でいえば、茶園では消費者が好むお茶をつくるために年間8回ほど農薬をやります。摘み取る10日ほど前にも、虫に食べられて色や味が変わるのを防ぐためにやるのが普通です。色や味が落ちると、1キログラム6、000円位で卸せるお茶が、半値になってしまうからです。不思議なことに、色や味のために、消費者はじわじわと体を蝕みそうな農薬漬けのお茶を高くても選んでいるわけです。

 この青年の父親は、水俣で私が見た源流とは別の、もう一方の源流がある「石飛」という標高500メートルほどの小高い山の頂上で無農薬で茶園を営んでいます。無農薬のお茶を作りたいと願って「実生の木」を育てる工夫などをしています。彼は「在来種」と呼んでいましたが、種から木を育て、葉を摘んでいるわけです。実生だと根が真っ直ぐ下に3メートルも伸び、虫にも気候にも強くなるからです。でも欠点があります。種は子どもと一緒で、同じ親から生まれても個性に富んでおり、それぞれ似て非なる葉をつけ、均質性に欠けます。だから、一般には均質性を求めて「挿し木」の苗から育てます。理想的な葉をつける親木から増やした苗木を育てるわけです。でもその木は根を横に張る傾向があり丈夫さに欠けます。それも農薬に頼る一因です。

 1キログラムの葉は、お茶になると200グラム、5分の1ほどになってしまいます。一番茶は緑茶にし、二番茶は番茶に、三番茶以降は焙じ茶にしますが、彼のところでは二番茶で紅茶を作っているそうです。九州では一般的には焙じ茶を飲まず、玄米茶を好むとかウーロン茶とは紅茶の発酵を途中で止めたようなお茶だとか教えてもらいました。

 我が家には実生のお茶の木が10本ばかりあります。トチュウ茶の木や甘茶の木もあります。もちろんドクダミ茶やハブ茶にするジュウヤクやハブ草も自生しています。早く時間的なきゆとりを作り、庭で作ったさまざまなお茶を楽しみたいなと思います。それまではこの青年にお茶を送ってもらって飲むことにするか。


1996年の水俣取材の折りに知り合った方の家の庭から小さなニッキの苗木を貰って帰りました。根元のエビネランも一緒に引っ越して来たのですが、ともに元気に育ったいます。後ろの白い袋のようなものは、柑橘類を寒さから守る寒冷紗の覆いです。左の方の袋は四畳半ぐらいの広さがあります。

ニッキの木を植えた南西4メートルの所に杏の木が生えていました。そのころはまだ直径10センチ位でしたが、勢い良く成長し始めていた頃でアッという間に直径30センチ位に育ちました。そうなってはニッキの邪魔です。日当たりを良くするために切り取り、薪にして風呂とストーブに焚いて、灰を庭に返しました。


作った人の顔がわかるモノが私は大好きです。この紅茶はその一つです。その人が持ってきてくれた芋焼酎と一緒に何時か、誰かと飲むことを考えています。

庭に生えている実生の茶の木。柑橘類のコーナーに5本ほど育っています。他にも庭のあちらこちらに茶の木が有ります。これまでにもほうじ茶を我流で作って来ましたが、ほんの道楽程度でした。沐浴剤のように、本格的に自給体制に入れたらいいのになあと思います。その前に水俣を訪ねなくてはならないでしょう。
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