思い出の簾 02/02/04
すごい職人に巡り合いました。簾(すだれ)の職人です。その人の提案で、庭の太い竹を2本切り倒しました。わが家の竹は、洗濯物の干し竿などに使う淡竹(はちく)ですが、孟宗竹のような迫力でした。根本の直径は13センチ、背丈が16メートルもありました。その太い竹を切り倒し、その人との再会を心待ちにしています。
これまで、わが家では、太い竹は使い道がなく邪魔でした。細い竹は畑でキュウリや三度豆(サヤインゲン)など蔓性作物をつくるときの手に使うなど重宝してきましたが、太いのは使い道がありません。だから立ち枯れるにまかし、切って燃やし、灰を肥料にしていました。燃料にするにしても「竹の火力は強いから釜を傷める」と子どもの頃に教えられましたから、細く割って焚きつけ程度にしか使っていません。
にもかかわらず、わが家では淡竹に腐葉土をたっぷりと入れて手入れをしてきました。それは太い筍をとるためです。「味は淡竹」と言われるように美味しのです。もちろん私は早春にとれる孟宗竹の筍も大好物です。形もボリューム感もよいし、第一筍シーズンの最初を飾る筍です。その点でいえば、淡竹は初夏にしか出ませんし姿はいま一つです。でも、筍シーズンの最後を飾り、刺し身でも食べられるほどアクの少ない筍ですから、太い淡竹の筍を収穫し、友人にも送りたいと思って手入れをしてきました。
わが家では、毎年妻の友人から早春にいただく立派な孟宗竹から筍の季節が始まり、淡竹で締めくくります。その淡竹の筍の、いわば採り忘れが長けた竹を切り倒したわけです。それは、簾(すだれ)をつくってもらうためです。この夏は、その簾越しの風をうけながら、広縁で冷たいビールを飲んで昼寝をすることになったのです。
わが国の簾の職人や業界は、中国などから入ってくる安い簾におされて酷い目にあっています。その一端を彼は次のように述べました。「わしらは一本の葦(よし)でも、太さや長さ、色やシミを見て分ける」し、「きちんと皮をむくし」「泥を被った下の方と先の方を外して切って」「真ん中の白いやつは夏障子に編む」「先の白くちは簾(うちわ)に」「根元も使えるのは選んでウドンの簾(す)にしまんねん」。しかし中国は「葦がなんぼでもあっさかい良いとこどり」しているし、「人件費が安いから、値段で勝負したら勝てまへん」と語る。ならば「その対策は」との質問に、「こっちの意識を転換することと違いまっか」と答えが返ってきた。
こうした会話の中から生じたアイデアがありました。それが庭の竹でつくる簾です。広縁の前には5年ほど前に苗を植えた白木蓮の木があります。あと15年もすれば広縁に充分な日陰をつくるまでに育つでしょう。もし私が生きておれば80歳を過ぎています。簾をつけたり外したりするのも億劫でしょう。そう考えて落葉樹(木蓮)の苗を植えたのですが、それまでの間ズーッと吊るしておける簾があればありがたいことです。日に焼けて黒くなった方が美的に深みが出そうな簾です。「15年は大丈夫。もたします」と彼は太鼓判を押してくれました。質や量の問題を超えた一言が加わりました。
私は、量の多寡や質の良し悪し程度では喜びがわきません。何処の誰が、どのようなことを考えながら、どのような材料を使って、どのような気持ちで作ったのか、といったことが伝わってくるモノの方が嬉しいのです。妻も「その職人さんとお会いしたい」と言いだし、3月20日から始まる個展の小道具をお願いしたようです。私は15年後に彼と一杯傾けたいと思っています。さて、もっているかダメになっているのか、楽しみです。
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あまりも長すぎて倒せないので3本に切り分けました。淡竹では珍しい太さの竹です。筍で取っておればさぞかし美味しかったことでしょう。でもこの竹は料理になるよりもっと素晴らしい用途に用いられます。
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なんとこの淡竹は長さ17メートル、太さ13センチもありました。夢の簾になるのですが、その簾を作る人が職人中の職人のような人でよけいに夢が広がります。この竹は幸せ者でしょう。 |
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私が二十歳の頃父が竹を植えるように薦め、淡竹の苗を買ってきました。たった一本の細い竹から竹藪ができました。竹藪といっても我が家ではいろんな木と一緒に生やしています。細い竹は畑の蔓作物の手などで活躍します。太いのはあまり用途がありませんでした。
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これまで太い竹はこのような竹囲いになるかもうひとつの用途しか有りませんでした。もう一つの用途はいずれご紹介できるでしょう。奥に見える立てかけた木は椎茸のホダギです。ちょうど冬子(ふゆご)の出る季節です。その奥の家は今はなき両親が住んでいました。
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我が家の座敷です。正面の障子の向こうに広縁があります。その広縁に用いる簾を竹で作ることになりました。40年ほど前に金融公庫で建てたときはガラス障子で広縁は有りませんでした。40年越しの夢が叶った広縁に夢のある簾が掛かることになりました |
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