循環型社会の走り 02/03/19

 秋田を再訪しました。去年の暮れとは異なる2つの地域で経営者対象の講演です。講演では、いつも私は「希望」を届けたいと思いますから渋い顔をされがちです。前回も渋い顔の人が多かったので申し訳なく思っていたのですが、再訪の声がかかり喜んで出かけました。なぜ希望の話は嫌われるのか。それは多分、希望には付き物の乗り越えるべき「ハードル」と、乗り越えための「自己超克」が付きまとうからでしょう。誰しもこの2つ、立ちはだかる障害や乗り越える努力は避けて通りたいところです。だから渋い顔をする人が多いのでしょう。もちろん、目を輝かせてもらえる人も大勢いますが、秋田の人は顔では渋い顔をしながら心の目を輝かせる名人なのでしょう。

 講演は2日がかりでしたが前日から出かけ、青森との県境にある人口7千人の小坂町役場を訪ね、町有の文化財や小坂精錬所などを案内してもらいました。先ず1905年に建てられた小坂鉱山の事務所、次に1910年にできた小坂鉱山の社員用娯楽施設の見学です。共に現在は小坂町が譲り受け、解体修理をして移築し、公共施設にしています。後者は康楽館と呼ばれる日本最古の芝居小屋でした。その後で郷土館や金属鉱業研修技術センターの案内もうけました。いずれも立派な建物や施設でした。案内や面談に応じていただいた人たちも個性的でとても印象深い人たちでした。

 小坂精錬所は環境の世紀にピッタリの企業に変身していました。その説明には、3度の危機を乗り越えた過去から触れる必要があります。当初は露天掘りの銀鉱山で、銀の精錬から始まっています。その銀鉱が枯渇して最初の危機。その下層にあった黒鉱から銅を精錬することに成功して切り抜けたが、太平洋戦争中に黒鉱が枯渇、第2の危機。戦後、地下400メートルにあった黒鉱を発見して再興したが、昭和60年代にその枯渇で第3の危機。その間に、黒鉱から銅や金や銀だけでなく17種類もの生産品を取り出す優れた技術を開発していました。

 銅の精錬所は世界に70ヵ所もあるそうですが、小坂精錬所のような高度な精錬技術を有するところは国内にはなく、世界でも4社とか。その技術を生かし、今ではリサイクル工場となっています。たとえば自動車のマフラーについた排気ガスの残留物から稀少金属を取り出す。廃棄されたコンピューターや自動車のバッテリーを資源として生かす。廃棄された携帯電話機からバッテリーを取り除いたものを資源とし、その1トンから金200グラムをはじめ様々な資源を取り出す、など。

 この企業は、かつては「取って作って使って捨てる」これまでの直線的な産業界の流れの最初の部分を担当していたわけですが、今では流れの末端でゴミを再資源化する立場を占め、循環させる役割を担っています。ある企業の廃棄物が次の企業の原料となってつながっていくインダストリアルエコロジーの走りを見るような思いでした。この企業城下町も亜硫酸ガスで山はいったん裸になったようです。その後、アカシアなら育つことを知って植樹活動をくりひろげ、今では立派に育っており、初夏にはアカシア祭りを開き、町は甘い香りに包まれます。アカシアの蜂蜜も名物とか。

 この旅では、車の視界がゼロになる吹雪を体験しました。夕食を御馳走になった料亭では太い柱や梁がメシメシ メシメシ と音を立てるのを聞きました。屋根の雪の重みです。秋田の人でも不気味で眠れないことがあるとか。自然の力を身に沁みる思いで実感しました。春や秋、あるいは夏の秋田も体験したいなあ。
                                                  

 

明治38年に建設された元小坂鉱山事務所。現在は小坂町指定文化財。中央の背の高い青年が案内してくれました。彼は復元・復原事業に直接携わった人だけにこの建物に対する愛情と人柄を偲べる一時となりました。見事な文化財でした。

小坂鉱山が露天掘りしていた頃の様子を偲ばせる展示物を郷土館で見ました。最初は富鉱体と呼ぶ銀鉱を掘って銀の精錬から始まっています。この露天掘りの後が今日まで残っていたら観光資源になっていたのにと少し残念です。

今日ではコンピューターの部品や携帯電話などを原料として様々な金属など生産物を精錬しています。過去に苦労して蓄積した技術や技術者が生かされているわけです。環境の世紀に不可欠な組織や人を見る思いがしました。

30キロの金のインゴットはずしりとした手応えでした。手前は銀のインゴットです。携帯電話の廃棄物から精錬された金属です。もちろんこうした金属を取り出す一連の行程を見学しました。
長木川(ながきがわ)は、秋田の市街地にある白鳥の飛来地です。翼を広げると2.5メートル体重10キログラムの大白鳥や尾長鴨、アヒルの原種の真鴨などがパンやキャベツを小学生から貰って美味しそうに食べていました。
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