異なるソロバン 02/03/25

 留守中に、座敷の縁側などに使う簾(すだれ)が届けられていました。大小とりまぜて合計6枚です。これまでは半間の幅の既製品を7枚使っていた所に使います。特に座敷の縁側用は、木蓮が大きくなって日陰を作ってくれるまでの間、15年間はもってくれることを期待して作ってもらった代物です。

 座敷の縁側は幅が一間半ですが、幅の広いガラス戸を2枚入れています。だから簾も2枚にしたい。これまでは半間幅の既製の簾を3枚使っていましたが、2枚にするとスッキリするだけでなく使い勝手もよくなるだろうと思います。側室の三角部屋は半間より狭い窓ですが、半間幅の既製品を使っていました。これも、見かけだけでなく機能面でも得心できる利点があるに違いありません。居間の縁側は一間半ですが、3枚のガラス戸を入れていますから、半間幅の既製品3枚で充分用は足せていました。しかし、見かけ上の統一性を願って、一緒に作ってもらったわけです。

 妻から電話で、6枚の簾に12万円支払った、と聞いた時は仰天しました。妻は、サラッと「値段を決めてなかったのですか」というだけで、話題を変えました。そう言われれば、留守中に届いてもお金を支払えるように頼んでおきましたが、値段のことは話していません。第一、見積もりを聞いてもいませんから話しようもなかったわけです。そのくせ、つまらない暗算をしてしまい、「親の子だなあ」と、苦笑しました。

 これまでの既製品の簾は、安売りを狙って1枚300円以下の中国製品を買っていました。それでも糸が切れるまでに3年ほどもちましたから、15年間だと5回取り替える勘定です。1度に7枚で2000円程度、それを5回でしめて1万円、と暗算したわけです。そして、苦笑しました。実は、半世紀以上も前に私は京都に疎開してきましたが、銭湯までの暗い夜道を20分もかけて通いました。母は病床の父に、風呂を作ってほしいと頼んだのですが、その時の父の返事を思い出したわけです。父は、風呂を作る費用や薪代などと入浴料を天秤にかけ、「もったいない」と言ったのです。この父の考え方で一番気に入らなかったと部分を、私は真似ていたわけです。

 日曜日の昼に、簾を座敷や側室の窓に吊るしました。夕刻、人形教室を終えて妻が居宅に戻ってくるのを待ちわびるようにして、妻に見せました。「いいだろう」と言いながらガラス戸を開け、巻き上げて見せました。「いいものですね」との相槌が返ってきました。妻は、値打ちのあるお金の使い方をした、とご満悦です。「作った人の顔が分かる簾だからね」とか「これからズーット一緒に過ごせるんですよ」といった会話が続きました。

 私たち夫婦はレジャーランドなどに行ったことはありませんし行きたくもありません。でも日々の生活には潤いがほしい。イギリスでは、150年ほど前に、ウイリアム・モリスという人が近代デザインの概念を発見し、日々の生活に潤いを与えようとしています。機械と違って職人の労働にはデザインが内包されていたことに気づき、デザイン事務所を設立し、末永く使いたくなる価値の付加活動としてデザイン活動に入っています。日々の生活に潤いを与える工芸は、芸術より大切だと気づいたわけです。そうした啓蒙のお蔭でしょうか、イギリスでは電気を普及させても見苦しい電柱は立てさせず、大量生産社会に早くから入りながら野立て看板などは禁止しています。

 なぜか今日ではデザインはゴミを増やす役割を担っています。もし簾職人と出会っていなければ、我が家はむこう15年間で簾のゴミを何倍もだしていたことになります。
                                                  

                                                 

 

網田さんの簾が座敷の縁側に場所を得ました。手前の白い木蓮が大きくなって日陰を作るまでの間、十五年は役だって貰いたいと期待しています。網田さんの保証付きですから、安心しています。

一間半の縁側に2枚の建具を入れていますので既製の半間の簾では不満が残りました。またこの葦で作った簾のような味わいもありませんでした。この簾は葦の節で切りその節を端にしてくるようにして編まれています。職人の心配りが偲べます。

銀座松屋で開いた個展のディスプレーに用いた、網田さんの作った竹の簾。節がきれいな模様のように編み込まれています。妻はディスプレーにも持続性を尊重しておりこれまでの和紙や衝立などに簾が加わったことで喜んでいます。

簾職人の網田さんが我が家の竹を切っています。この竹で我が家の寝室の前の広縁に用いる葦簾のようなものができる予定です。広縁の屋根はガラスですから夏場の涼感を求め、ガラスの下にはめます。
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