部分と全体  02/07/30                                         
 
 学生から非難の声がありました。出席カードに大きめのメモ欄を設け、意見や質問などを求めているお陰でしょうか。近年は、自分の意見をきちんと言える学生が減る傾向にありますから、こうした声を大切にしています。それは1年生が対象のライフスタイル論で、持続性のある暮らし(3)相互扶助」をテーマにした時間でのことでした。

 本当の優しさとは何か、と私は切り出しました。21世紀は相互扶助の大切さを見直すべき時代だし、何が正常なのかとか美意識や価値観とかの転換を伴う時代だと見ており、優しさを例題に、思考力を深めてもらおうとしたわけです。そこで、たとえば君たちが猫だったら「魚をくれる人」を優しい人、と思うのではないか、と謎をかけました。私は逆に、この人を怖い人だと思っている。ペットにされてしまいそうだから怖い。せめて「魚の捕り方を教えてくれる人」であってほしい。でも、これでも怖い。そうした人を優しい人と見てきたから資源枯渇や野生生物の絶滅に結び付けてきたのではないか。だから私は、本当に優しい人とは「魚の生態を教えてくれる人」と考えるようになった。だが現実には、野生生物を絶滅の淵に追いやってでもお金を儲け、恋人や妻に贅沢をさせることが優しい行為だと考えている人がいる。また、そうした人を優しい人とみて化粧をして迎え入れる人もいる。私は、そうした関係も怖い。お金に惑わされ、魂をレイプしたりされたりし合っているように思えるからだ、といった趣旨で講義を切り出しました。

 こうした例示はさまざまな学生の反応を誘うようです。すんなりと理解できる人から、つまり講義の目的に則した分かりやすい事例説明と見る人から、居眠りをしてしまう人、全体の中の部分を取り上げて個別の解釈を加え始める人などに分かれるからです。経験則でいえば、次第に後者が増える傾向です。全体把握を苦手とする若者が増えているのかもしれません。次のような非難の声がありました。
 
 「性的な言葉を使わないで下さい」との非難です。「授業内容に関係がないと思います」とつないだ後で、「授業中にお喋りをしたのは反省しています」と結んでいました。こうした声はめったにもらえませんから私は大切に扱います。たとえば次回の授業でとりあげ、見解を述べたりします。この度は、授業目的に則して、いかにこの非難精神を建設的に生かせばよいのかに気付かせようとしました。たとえば、「○○○に代えて×××という言葉を用いる方がよいのではないでしょうか」といった提案です。こうした提案ができるようになれば、家庭や仕事場で相互扶助関係を構築しやすくなるはずです。

 私は学生におおいなる期待をしています。多くの学生は、廊下で出会えば挨拶ができます。教室やトイレの掃除は学生と教職員でしていますが、綺麗に保っています。廊下でゴミを見たことがありません。こうした点に、偏差値の高さよりも、大きな可能性を期待すべき時代になると私は見ているからです。こうした人が、自分の頭で深く考える癖をつけ、そこに喜びを見いだせる人に育ってほしいと考えています。

 それはさておき、わが家の庭でもトノサマガエルが稀少生物になりました。すでに見掛けなくなった昆虫もいます。ケラが好む堆肥の山は増えているのに、ケラを見かけなくなりました。近隣からハンミョウも居なくなりました。妻と「道案内」とニックネームを着けた昆虫で、出会うと私たちに先立って前へ前へと飛んで行って先で待っているような振る舞いをする甲虫の一種です。豊かな自然を子どもたちに残せるようにしたい。       


これが学校で用いている出席カードです。授業前に配り、メモ欄に自由意見を書き込んでもらうようにしています。アンケートを取るために使うこともあります。遅刻した人には授業後に異なる色の出席カードを渡し、チェックしています。近頃は意見を「書けない人」が増えています。どうやら「書かない」と「書けない」が混乱しているようです。
小テストもします。第1問は、空白に回答用語群から正しい言葉を選んで入れて文章を完成させてもらいます。第2問は、空白に正しい言葉を自分で考えて入れてもらいます。第3問は、講義を思い出して文章で回答する出題です。最後は自分の意見や希望も盛り込める出題で、論述力も求めます。第1問は全員が手をつけますが、次第に手を着けられない人が増え、最後の問題では多くの学生がお手上げです。

私は、それぞれの先生に「専門を通して人間を教えてほしい」と頼み、学生には「自分自身を見つめたり自分の将来を見定めたりする学生生活にしてほしい」と訴え続けています。うっかりすると、単位を簡単に与える教師を優しい先生とみる傾向があります。それをなくそうとしていますが、皆に恨まれてるかな。

わが家の玄関前です。釣り鉢は16年来毎年アイトワが忙しい時期に助けに来てくれるカップルからのプレゼントです。途中で2人の姓が一つになりました。水鉢の植物は御節料理に使うクワイです。居宅には冷房機がありませんから、玄関にも網戸を入れています。水鉢の蒸発や植物の蒸散作用が涼しい風を網戸に送ってくれるとように思います。
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