治水が決め手  02/08/22                                         
 
 チベット旅行に出かけていました。ある学会のチベット探検に加わり、四川省の成都からチベットに入ったのですが、今回は成都を繁栄させた治水事業、長江の支流「岷江(みんこう)」で見た「都江堰(とこうせき)」に触れます。

 かつて私は敦煌まで足をのばす一人旅をしたことがありますが、その折に都江堰を知り再訪を願って来ました。今回は子細に見学し、その偉大さに舌を巻く思いがしました。紀元前3世紀に始まり、完成までに数世紀を要した工事です。それは岷江の氾濫に備えるだけでなく、成都を豊かな都にする治水事業であったと理解できました。

 短絡にいえば、「魚嘴」と呼ぶ人工の中州で川の流れを本流(外江)と支流(内江)に分け、さらに内江を二分して灌漑などに活かす水を人工河で引き込む工事です。この工事は、内江が平野に突き出した山を迂回すように流す場所を選んだようです。その山を掘削して人工河の入り口にし、その掘削工事で切り離された小山を中州として生かし、人工河内江に水流を二分しています。だから、切り離した小山には「離堆」、山を穿って造った人工河の入口には「宝瓶口」という名称を与えています。

 もちろん離堆のところで人工河に水が安定して流れ込むようにする工夫が施されています。渇水時には人工河に集中的に水が流れ込むように宝瓶口の川底を低くするなどしていますが、増水時には余分の水を内江に捨てる工夫です。つまり、離堆のところで内江の川底を少し高くし、「飛沙堰」と名付け、余分の水だけ溢れさせ、外江に捨てる工夫です。かくして今日まで2000年近くに渡って安定した水が成都の街に流れ込み、灌漑はもとより、染色や水車の動力などに生かされてきたわけです。

 とはいえ、岷江の水が以前よりも濁っているのが気になりました。岷江は長江に流れ込みすが、もう一つの大河である黄河を連想したわけです。黄土高原には八〇年ほど前までは森林があり、黄河の水も澄むこともあったようです。だが今では濁りっぱなしであるばかりか、過剰灌漑で黄河断流を常態化させています。黄河の水が途中で途切れ、干上がる現象です。長江も黄河化が問題になっていますが、その水を、一五〇〇キロメートルも北方の山東省まで運ぶ「南水北調」計画が進められているのです。

 都江堰は、自然の仕組みを心得た偉人が、持続性のある開発を試みた例でしょうが、近年は50年とか100年といったほんの目先の利益に目が眩んだような自然破壊行為が多すぎるようです。その浅はかさが、今日の物質的繁栄と精神的荒廃の原因のように思えます。長江ではすでに禁漁にせざるをえない事態が生じています。電気ショックなどの漁法が導入され、年間漁獲量が50年前の4分の1になってしまったからです。三峡ダムもエジプトで見たアスワンハイダムと同様の悪影響を及ぼすに違いありません。

 それはともかく、2週間ぶりでアイトワの庭に戻りました。妻は渇水を無事に乗り越え、水道水を使わずに緑溢れる空間を維持していました。昨年、『庭宇宙』という見出しで8月2日にご紹介した小さな治水工事の成果だと思います。もちろん私は洗面などで用いる水道水を捨てずに溜め、庭にまく作戦に手をつけました。もう少し庭の植物などの様子を見てから、妻人にも米の磨ぎ汁なども捨てずに生かす作戦を指令するかもしれません。要は、精神的にお互いを高め合いながら、物質的にも豊かさが維持できる生き方を完うしたいのです。その秘訣は持続性を共通の目標とすることでしょう。

      


もとは一つの山の裾の一部を掘削して小山を切り離すような工事をしたようです。都江堰の最も大切な部分です。掘削した部分に宝瓶口(左側)と名付け内江の水を人工河に取り入れています。余分の水を外江に捨てる為に切り離した小山に離堆と名を付け、中州として生かしています。
二千年前はこうした木の杭と竹と石を使って治水工事をしていました。紀元前三世紀に岷江の氾濫を防ぐために蜀の郡守である李冰が指揮をとって始まったと記されていましたが私は灌漑などが主目的であったように見ました。

楽山の近くで見た岷江。この山の陰に中国人は涅槃像を見ています。右端の小さな山を仏様の頭と見るのでしょう。胸のあたりに世界最大の大仏、高さ71メートルの磨崖仏があります。


この旅では大河と縁が深かったようです。ヤルン・ツァンポ河という広い河をサムイエ寺を訪ねて渡し船で渡りました。この河はインド洋に流れ着くと聞きました。
帰国した日の夕刻、トウモロコシを食べました。食べている途中で写真に撮っておく必要性に気づきました。2年前の中国旅行で少数民族にもらった種から育てたものです。かつて我が家で育てていたトウモロコシと同じ味でした。いつかこのトウモロコシについて詳しくご報告したいことがあります。
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