秘湯とイグネ  02/10/28

 小さなエコツーリズムをしました。標高600メートルの山の中の秘湯に泊まり、翌日は江戸時代から守られてきた自給自足生活を継承する農家を訪ねました。福島県には「不動湯温泉」というひなびた一軒家の温泉宿があります。福島駅からタクシーで半時間のところに不動湯温泉という温泉街があるのですが、そこからさらに20分ほど奥に行くと宿の名称が不動湯温泉という旅館があります。その宿で一夜を過ごし、翌日は仙台に移動して米作農家の庄子さんのお宅を訪ねました。

 不動湯温泉には5つの湯船があります。2つの女性用を除く残る3つは女性も使える混浴です。その1つは木造の長い階段状の廊下を降りたところにある屋内の風呂で、さらにそこから屋外の階段を数十段降りたところにもう1つの小さな露天風呂があります。帰途、階段廊下を登りながらふとポタラ宮を思い出しました。高山病であえぎながら登ったチベットの宮殿です。風呂上がりの夕食で、汁ものにオリミキというキノコが入っていました。箸休めのヤマクラゲの漬物で温燗を傾けながら、静かな夜を満喫しました。翌朝も、残る混浴の一つには若い女性がつかっており、遠慮しました。下の屋内からの階段を数えると81段でした。イタヤカエデが生えていましたが紅葉には少し早かった。

 庄子さんのお宅は有名ですが、私は農文協の雑誌『現代農業』の別冊号で知りました。NHKのテレビ番組でも紹介されています。「イグネ」と総称される屋敷林を生かした持続性のある生き方を可能とする生活空間です。市中から車で20分程のところにある長喜城という地名の集落の一軒で、杜の都と呼ばれる仙台のいわれに接した思いでした。一昔前までは、市内にも「御林」と呼ばれる武家屋敷が残っていたようです。武士が自給自足を旨とする生活を営んだ300坪程の屋敷がつらなっていたわけです。残っておれば大変な文化遺産になっていたに違いありません。

 仙台は伊達政宗が潘祖ですが、太さ1尺以上の木を切る時は役所に届け、許可をえて切ったうえで5本の苗を植える義務があった。その対象となる檜、杉、欅など14種の樹木の育苗所が藩内に14〜17箇所あった、とご案内いただいた結城登美雄さんは話しておられました。今も多くの人が政宗公と崇めるゆえんでしょう。結城さんは農文協の雑誌の別冊号『日本的ガーデニングのすすめ』で庄子さんのお宅やかつて実測された御林の一つの図面もそえて寄稿されています。そこにわが家も「創造の庭、エコライフガーデン」との見出しで紹介され、結城さんや「イグネ」を知るきっかけとなりました。

 屋敷の木を使って建てた家に感心しました。玄関の厚くて広い欅の一枚板にびっくり。屋敷の守り神、屋敷を流れる水路、籾殻で炊く風呂、米倉の側にある種芋を代々にわたって伏せてきた場所など、生きる確かさを感じました。この屋敷で生まれ、かつては屋敷内にある墓地で眠った人生。間もなく、こうした屋敷の価値や意味が見直されることでしょう。だが、こうした生産や創造の場である家は並大抵の努力では維持できません。

 農文協に結城さんをご紹介いただき、そのご案内でお訪ねしたからでしょうが、丁重なお持てなしを受けました。まず、柚の飲物、庭の柚子をとって一遍の切り身を浮かすようにして湯を注いだ飲み物に感動。お茶と数種の漬物や、辞そうとしていた時にはすでに準備が終わっていた炊きたてご飯のお握りや笹蒲鉾などは腹わたや心にしみ渡りました。家が生産の場であることを実感させていただきました。
               


不動湯温泉の外湯。パンフレットに載ってる写真です。山の中の一軒家に着てからカメラのバッテリーを忘れていたことに気付きました。細長い木造の急な階段や紅葉には少し早いイタヤカエデを写真に収めたかった。ご主人によれば、カラオケやマージャン好みの方には町の方(不動湯温泉街)があります、とのこと。


イグネの樹木をつかって7代目が建てたという3度目の家屋で、家族が住んでおられます。暗算すれば100年住宅ということでしょう。玄関にケヤキの分厚い1枚板が使われていましたが、歴史の重みを感じました。幅2メートル奥行き1メートル以上もあったようです。屋敷の中に先祖のお墓があります。お盆の時など、先祖を思う気持ちには実感が沸くことでしょう。

米倉の軒下は種芋の貯蔵庫。300年以上に渡ってコイモやサツマイモなどの種芋を土の中に埋め、冬越しの貯蔵をしてきたといいます。「コイモが1つ残っていたんだ」と結城さんは案内しながらつぶやいておられました。漬物や味噌をつける蔵もみごとでした。年代物の様々な薬酒も貯蔵されていました。もちろん味合わせていただきました。

わが家では一番なりのブロッコリーの収穫が始まりました。直径が18センチの大物ですから、端の方から切り取りながら食べてゆきます。今は葉を青虫が食べます。真冬になればヒヨなどの小鳥が食べます。野生動物は花芽を食べません。それは来年のことを考えた本能か、葉のほうが美味しくて栄養があるのか、いずれかでしょう。



パセリもみごとに育っています。7株しかありませんが、背丈も横幅も30センチ以上ありますから、次々と葉をかきとって食べますが消化しきれないぐらいです。もちろん蝶の幼虫の餌にもなります。キアゲハのイモムシの好物です。パセリがないときは、薬草のトオキ、イタリアンセロリ、人参の葉を、それらもないときは野生化している三つ葉を食べています。
topへ戻る

このサイトへのご意見、ご感想などは、staff@shizen.ne.jpまで