森林文化アカデミー 03/02/10
すばらしい学校があるものです。海のない岐阜県が、森に囲まれたような環境で、2年前に立ち上げた2年制の学校です。学生一人当たりに投下する経費は、国立大学の医学部の学生にひけをとらないぐらいです。もちろん医学部生は6年間も学びますから、総計では上回りますが、単年度でみればこの学校の方がはるかに上回っています。決して金額ですばらしさを評価するつもりなどありませんが、そこまで高くついても開校の必要性を認めた判断がすばらしいと感じるのです。
学生は年間40人です。コースは2つで、森のエンジニア科は20人で、森林関連分野での活動に意欲のある高校卒業またはそれに準ずる人を対象にしています。森と木のクリエーター科も20人ですが、同様の意欲をもつ大学を卒業した人だけでなく、短大や専門学校を卒業した人は2年以上の、高校を卒業した人は4年以上の林業や造園などの有益な社会経験のある人を対象にしています。学生は、里山、人工林、山村活性化、木工製品などのものづくり、木造建築の5分野で学ぶことができます。個別の研究室や宿泊施設もありますから実践的に突っ込んだ勉強ができそうです。
こうした分野に関心のある人を相手に、90分授業2回分の特別講義をさせてもらいました。もちろん、感想文を後日送ってもらえるようにお願いして引き受け、20人たちを対象に映像もまじえて講じました。いわゆる「一流大学を卒業して一流企業に就職し、高すぎる給料をいただき『会社ジャンキー』のような生き方に強い不安を感じるようになっていました」という男性や、「自分はこの先、どんな生き方をしていくのか? どうしていきたいのか」と考え込んでいた女性もいました。そうした人たちに、方向を示したりヒントを与えたりすることができたような感触です。
農林業などの生産活動に喜びや楽しさだけでなく誇りまで見いだそうとすると、互いに誠実な心で支えあう同調者が必要だ、と私は思っています。逆に、高度経済成長時代以降はこうした支え合いを不要とする生き方を広めましたが、それが環境破壊や自然の荒廃を進めたりシングルを増やしたりしてきた、と私は睨んでいます。だから、この学校は技術や知識を授ける機能を超えた意義が見いだせそうに思うのです。次の時代は、自己責任の下に自己完結する相互扶助関係が必定となる社会になるのではないでしょうか。
こうした人達と接したからでしょうか、週末は久しぶりで鋸を握って日曜大工を始めました。これまで10年間も風呂を焚く薪は仮の置き方をしていたのですが、薪置き什器を作りました。これから死ぬまで使うつもりですが、引き継いでくれる人がいたら何代にもわたって使えるでしょう。何も上手にできたと言いたいのではありません。近頃はこうした個別の然るべきところに納まり、何十年と機能する道具や家具がめずらしくなった、といいたいのです。各人が個別の生き方を創出し、そこで必要となる道具や家具をつくりだし、それを生かしてより個別性を深めるような生の営みをが少なくなったようです。
妻は週末に味噌の仕込みをしました。前日から大豆を水につけるなど下準備をしていましたが、蒸して麹とまぜてつぶして瓶に詰め込む作業です。わが家は、幸いなことに、大喧嘩もしますが基本的な価値観は一致しているようです。望ましき衣食住のあり方、優先順位のつけ方や美意識、警戒すべき対象や空間、自然との関係などに関する考え方がよく似ているようです。だから、なんとかうまく行っているのでしょう。
緑あふれるキャンパスに木造の校舎が広がっていました。面格子構造という特許の工法で作られていましたが、すべて間伐材を使って大きな構造物が出来ていました。机などの什器も白木でしたから柔らかい感じがしました。次回お訪ねする機会ができたら、講堂なども見学したいなあと思っています。
|
仮の薪置き場の薪を取り除くと、ヤモリが冬眠していました。カメラをとりに走っている間に半数以上が消えていました。薄暗い所で老眼の目にはヤモリとは分からず、ゴミと思って触わりましたから、触った中程のヤモリに逃げられたわけです。こうも黒いヤモリや白いヤモリがいるとはこれまで気づいてはいませんでした。
|
完成した薪置き場です。さまざまな種類や太さの木や竹も積んでいます。現実に風呂を焚くには、こうしたバラエティが便利なのです。もちろんこれとは別に、杉の枯れ葉を入れた容器もあります。杉の枯れ葉は紙より火が着きやすいですし、火力があります。薪でじっくりと焚いた風呂ですと、私まで半時間近くもつかっています。ガスで沸かすこともできますが、その時は10分とかからずに上がっています。
|
妻は毎年味噌を仕込みます。これから使う味噌は、母と二人で仕込んだ最後の味噌とのことですから、4年前に仕込んだものです。真っ黒になっています。もちろん2年ほど前に仕込んだ味噌を主に使います。母が係わった味噌は、思い出を呼び戻したい時や、2年ものと混ぜて使う時などにご登場でしょう。
|
風呂を焚く釜です。右手前のバケツに焚き付けの杉の葉や芝が入っています。うしろの杉の丸太は、コゲラが餌の虫を求めてつついた跡がありましたので燃やさずに残しています。新品の七輪もありますが、母が使っていたものや母が嫁いできた時の四角い七輪も残っています。
|
|