しし汁とドロムシ送り  03/02/17

 京都の奥にある落人伝説のある集落を再訪しました。前回の11月は雪が降り出しましたが、今回は好天でした。だが、野山は雪に埋もれており、冬は無人になるわけが分かりました。分校跡で、中学校の分校教諭として1960年に赴任し、3年近くを過ごされた先生をお招きし、昔話をしてもらいました。当時は、バスがあったといえ最寄りのバス停までの道中は「いちょうがえし」と呼ばれていたとの事でした。漢字では「胃腸返し」で、ひどい凸凹のある地道であったとか。そのバス停から歩いて1時間もかかった集落の学校で、1年生から3年生までの十数名の生徒を一つの教室で教えたわけです。60年に村で最初のテレビと電話が分校に入り、分校は集会所のようにもなったようです。

集落の人々は「そちは」と呼びかけ、ものを頼むときは「してたもれ」と願ったといいます。村の子どもは大人並みに家事を手伝い、褒めると、当たり前のことをしているのに「どうして褒められるの」と理解ができなかったとのことです。中学生を引率して修学旅行に行き、本校の生徒と同じように男女で分けて寝させようとすると、「なんで別れるの」と質問されたと聞きました。辛かったことは、当時は都市部でプロパンガスが普及し始めており、「次回から炭は要りません、とお伝え下さい」との伝言を電話で頼まれ、炭焼きで現金を得ていた村人に取り継ぐことだったといいます。

 分校で昼食をとってから村の探索です。弁当を開こうとしていると、しし汁の用意ができていると聞かされました。村の人が先に着き、私たちのために猪の肉を用いて準備をして下さっていたわけです。大根やゴボウなどが入っており、刻みネギと七味をかけて食しましたが、臭みはまったくなく、皆さんもお代わりをしていました。

 村の神社まで雪道を分け入り、神社の境内で「ドロムシ送り」の思い出話を伺いました。毎年7月1日に村の男と子どもが境内に集合し、銘々が大きな松明を片手に村の水田をくまなく練り歩く行事です。太鼓をたたく人が加わり、皆がドロムシ退治の歌を囃しながら2時間ほどかけて練り歩き、稲を枯らす虫を松明で誘って殺し、豊作を願ったわけです。男どもはすっかり出来上がるまで境内で酒を飲み、出立はいつも11時頃になったといいます。ドロムシは小さな虫で、被害にあった稲の葉は白く枯れるようです。

 トチ、ホウ、リョウブなどの芽はまだ小さくて固く、それだけに赤松の幹の色がくっきりと浮き上がっていました。リョウブの名は、初めて知りましたが、同行の植物学者に茶席で用いる炭にする木だと教えられました。動物学者にテン、カモシカ、ニホンジカなどの足跡や糞の写真などを用意してもらったのですが、雪が深くて探す気力が沸きませんでした。一帯は標高600から800メートルですが、ヤマネやホンドモモンガの生息状況を調べる巣箱を随所に設置しています。村内では蜜蜂の巣箱もよく見かけます。

 留守中に、友人の奥さんとお嬢さんが予告もなくお土産を持参して訪ねてくださったようです。この週末に、薪割りを済ませ、雨のかからないところに積み上げました。葉ニンニクの球根が芽を出し始めましたので、畑に植え込みました。昨年の暮れに植えた葉ニンニクは立派に育っており、葉を収穫して妻が餃子をつくりましたが美味でした。人参の畝の除草もしました。この冬は例年になく冷え込みましたが、寒冷紗で覆ったエンドウマメの苗は無事です。昨年は今頃に支柱を立てていますが、今年はまだほんの10センチあまりにしか成長していません。
                                                                    


集落に向かう途中から雪が深くなりました。好天で幹や枝の雪はすっかり落ちていましたが、山肌や野は一面の雪景色でした。山裾の傾斜地にリョウブの木が一面に生えたところがありました。多分、炭焼きの木をとるための里山の一部所であったと思われます。




しし汁を御馳走になった昼食風景です。とても猪の肉が柔らかくて美味しかった。食後に神社まで行きましたが、道中で漁師の詰め所がありました。檻に1歳半位の猪の子どもがいましたが、谷に追い込んで捕まえたとか。村の人が、「皆さんが食ったのは、この母親ですよ」と聞かされましたが、どうやら私たちはからかわれたようです。




村の神社は御利益があると聞かされ、丸木でつくった橋をわたって皆さんが手を合わせておられました。ここで、ドロムシ送りの話を聞きましたが、その折に村の雑煮の様子を質問しましたところ、小豆仕立てとのことでした。いわば塩味だけのお善哉です。


以前にリンゴジャムをいただいた友人のお嬢さんが手作りしたジャムは2種類でした。リンゴだけでなくアンズのジャムもありましたので、アンズから使い始めました。ヨーグルトは妻の妹がつくったカスピ海ヨーグルトですが、種が違うとかで、柔らかいのに粘りけに富み、趣が異なります。ジャムとヨーグルトをよくかきまぜて食しましたがとても美味でした。



人参の畝の除草を私がしたあと、妻が間引き、その間引き菜を胡麻逢えにして食させてくれました。霜に何度も打たれただけにとても柔らかく、これも美味でした。これから何度かにわたって間引きますが、次第に葉が固くなりますから調理方法も変わります。
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