輪中と水祭り 03/08/06

 24日木曜日は、大垣で二つの楽しい時間を与えられました。一つは「大垣市緑化審議会」に出席しましたが審議会長に再任され、緑化の大切さについて少し話す機会に恵まれたことです。もう一つは輪中(わじゅう)を見学する機会を与えられたことです。もちろんこれまでに幾度も見てきましたが、今回ほど組織的に見学したのは初めてです。

 輪中とは、河川の氾濫で生じる洪水災害を避けるために村落や田畑を取り囲んだ堤防と水防共同体のことですが、江戸時代から築かれています。伊勢湾まで40キロメートルほどの距離にありながら海抜4メートルという平野に複数の河川が入り組んで流れている地帯に、大垣藩の輪中だけでなく幕領の輪中や尾張藩の輪中などが政策的に隣接させて築かれていました。30年ほど前までは土を30センチも掘れば地下水が吹き出したといいます。ガマと呼ぶ自然に水が吹き出す泉が今も残っています。だから、そこに定住していた人たちは輪中ごとに団結や敵対し合わざるをえなかったわけです。

 高校時代の人文地理の時間に輪中を学び、なぜか心に強く焼きついていましたが、大垣の地名は10年ほど前に大垣で職を得るまでは意識にありませんでした。新幹線が走る前の学生時代やサラリーマン時代に、私は京都と東京間の寝台車などで大垣駅を幾度も通過していながら、勤め始めてから初めて輪中が大垣にあったことを知り、とても近しい気持ちになったものです。さらにその歴史を深く知るにつれて、知恵と汗だけでなく血や怨念までが永年にわたって流されたり積み重ねられたりしていたことに気付かされました。だから、輪中根性と自称される地域住民の心根にとても深い共感を覚えたわけです。

 今回は、西濃地区と呼ばれる大垣市とその周辺に作られた20ほどの輪中を系統立てて見学させてもらいましたが、車から降りて輪中堤に立つたびに心が高鳴るのを覚えました。大洪水に襲われ、輪中ごとに分かれて団結し、隣の堤防が先に切れてほしいと願ったりしている定住農民などの姿を瞼に浮かばせてしまったからです。

 以前に、わが家では3つの意味を込めた「アイトワ」という愛称を庭に与え、1986年から一般開放したとお伝えしましたが、その1つの意味は「愛と輪」であり、「和」ではなく「輪」を選んでいます。それは山本七平さんが生前に、「和」の精神の弱点として「和は外に対して不和である」と指摘されていたからです。だがその後、大垣に勤めるようになり、輪中ごとにいがみ合わされた定住民の辛さを知り、「輪」に代えて「環」に改め、「愛と環」にしています。偏狭な争いが世の中からなくなってほしいからです。

 8月2日の土曜日は、夏休みにもかかわらず「水祭り」で賑わう大垣に出掛けました。岐阜放送のTV番組「命育む川、命つなぐ川 in 大垣」に出るためでした。川や水は皆のもの、皆が水や川に対する自己責任を果たさなければ天災のはずの洪水を自ら人災にしかねない、との想いを訴えたいと思って出掛けましたが、うまく伝えられたかどうかは疑問です。「四季の歌」でデビューした荒木とよひささんや双子のフォークソング歌手サスケ兄弟とか三倉菜奈・佳奈姉妹なとご一緒できましたが、その場の雰囲気を見事に盛り上げるタレントの力に、いつのにように感心させられました。

 この間の7月25日から8月1日までは韓国旅行をしていました。計画では博多から水中翼船で釜山に渡り韓国を一周する計画でしたが、水祭りの話が持ち上がりましたのでソウルで中断し、帰ってきました。この旅行の話は後日に回したいと思います。


韓国から帰国翌朝、この野菜を食して大垣に出掛けました。大きいほうのトマトはちょうど400グラムでした。天候がよかったようで引き締まった味を楽しめました。ツルムラサキは今年の初物です。トウガラシは長梅雨と冷夏のせいでしょうか不作ですが、これからの挽回を期待しています。

輪中の一角に設けられた「洗堰(あらいぜき)」です。天災はいつやって来るか分からないものですが不可抗力とはあきらめず、輪中では部分的に堤防を低くして洪水時に溢れさせ、遊水池に貯める知恵を働かせています。近年になってドイツなどでは遊水池の大切さに目覚めて地域整備を見直し、洪水時にわざと氾濫させる工夫を取り入れています。 

洗堰は昭和33年に整備し直され、流木止めを設けています。遊水池では、普段は屋根をふく茅などを育てていたようです。洪水は恐怖ですが、上流の肥えた土を運び、冠水地を肥やします。古代エジプト文明はナイルの氾濫原を肥沃な農地として生かすことによって繁栄しています。

輪中では誰しもが自己責任の下に洪水などに備えていたようです。盛土の工夫、天井にいつでも使えるように船を吊り下げておいたり、「上げ仏壇」といっていざと言うときには仏壇を即座にロープで吊り上げる工夫をこらしたりしていました。(撮影 河合孝『ふるさとの宝物 輪中』から)

ホタルの幼虫が羽化に選ぶ上陸地点やハチが巣を作る位置が高ければ、その年は雨が多くて河川の水位が高くなる先触れだといわれます。私は今の住居を24歳の時に、金融公庫を生かして94万円で建てましたが同じ心境になっており、洪水だけでなく山火事や台風の被害にも配慮して選んでいます。水道や電気の来ていない土地でしたから、坪単価5000円でした。
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