日韓と文化の壁
03/09/28
夏休みの韓国旅行では幾多のお寺や古墳や博物館なども訪ねました。そこで見た韓国文化は日本のそれらとそっくりでしたが、とりわけ慶州の仏国寺で敬虔に祈る僧侶の姿を見てハッとしました。正座をしていたからです。それまでは韓国には正座の習わしがなく、立て膝か胡座しかないと思っていました。韓国でもかしこまるときは正座をすることを知り、彼我の文化の壁が低くかつ薄くなるような心境でした。だがすぐに、韓国人はどうして日本人のように日常的には正座をしないのだろうか、と疑問に思いました。
それがきっかけで、彼我の一般社会に見る生活文化の差異が気になりだしました。まず草鞋(わらじ)が目にとまりました。日本のハナオがある草鞋とは違って靴の機能を持った草鞋です。草鞋だけでなく、ハナオのある履物をついに目にしませんでした。韓国は中国と同様に靴を用いてきたのでしょう。韓国文化の影響を色濃く受けた日本が、どうして靴を普及させず、運動性に欠ける下駄や草履や草鞋を普及させてきたのか。壺もその一つです。わが家では今も味噌を仕込むときなどに使っていますが、韓国のような蓋がありません。妻も母に倣って壺の口を紙で覆い紐で縛って封じていますが、韓国風の蓋があれば便利なはずです。なのに、どうして蓋は伝わらなかったのか。そんなことを気にしながら旅を続けていると差異が次々と見えてきました。まづ箸の置き方。韓国は中国と同様に縦置きですが、わが国は横置きだから持って使い始めるまでにワンテンポ遅れます。韓国では箸とセットでスプーンを必ず用いますが和食では用いません。辛いトウガラシやニンニクも日本では普及していません。その典型はキムチでしょう。わが国では白菜を塩漬けにして食しますが、それは韓国ではキムチを漬け込む前工程に過ぎません。塩漬けにしたあと海の幸や山の幸を混ぜ込みながら辛トウガラシやニンニクを生かして本漬けにし、食欲や精力だけでなく保存性も増す食べ物にしています。古墳や寺に見る彼我の文化は似ているのに、一般の生活文化にはことほどさような差異があり、壁なり溝を感じました。
今回の訪韓は博多から船で夕刻の釜山にわたり、翌朝チャガルチ魚市場を訪ね、そこで昼食をとることから始まりました。生きたまま売っている豊富な海産物の中からイカやヒラメ、ホヤやアワビなど幾種類かを選び、目の前で刺し身や残った粗を汁物にしてもらいながら、種類の豊富さと新鮮さ、そして値の安さに驚くことから始まったわけです。その後、レーメンや焼き肉も口にしましたが、焼いている途中の大きなカルビの肉だけでなく運ばれてきた鉢の中の長い麺までハサミでチョキチョキ切る食し方に驚きました。
日本に帰りつき、久しぶりでわが家の食事をとりながら改めて考えました。ワンテンポ遅れる箸の置き方、便利なスプーンを用いてこなかった食卓、食欲や精力を増進するニンニクや辛いトウガラシの忌避、機動性に富む靴や保存食の面での遅れ、いざというときに立ち上がりにくい正座、こうした文化の差異はなぜ生じたのか、と。その時、韓国で胡座を組みビビンバを匙で大胆に食していた折の会話を思い出しました。日本では味噌汁をご飯にかけるだけで「猫飯」と諌めあい、胡座で食すると下品と叱られたのに、との私のつぶやきに対する同行の一人の発言です。日本でも京都の宮廷社会には「おまわり」というビビンバに似た食べ物や食し方があったなどとの指摘です。「本当かいな」と思いながら、どうして一般家庭ではそれらを忌避し、広げなかったのか、と首を傾げました。どうやら日韓の間の壁や溝には、深遠な物が潜んでいるのかもしれません。
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