お留守番と束見本   04/03/16

 日曜日はうっすらと雪化粧をした爽やかな好天で明け、来訪者に恵まれました。朝一番は、企業社会のあり方について友も交えて論じ合い、昼一番は、夫婦どうしで存じ上げている方にひょっこりと家族連れで訪ねていただき、美意識や価値観が転換期にあることを語らいました。引き続いて、大垣から二組のご夫婦をお迎えし、次の生き方を話し合いました。その一組の奥様とはクオリティ・オブ・ライフをテーマにした大垣市女性アカデミーで知り合い、アメリカ旅行もご一緒したし、ご主人とも面識があります。だから、知らない人に立ち聞きされたら「いい歳をした大人が、青臭い」と、笑われそうな会話になっていたはずです。もちろん、夕刻から畑の畝つくりにも精を出し、心身ともに爽快な一日となりました。妻も、土曜日のうちに個展に出品する人形の発送を済ませ、爽やかな顔で終日過ごしていました。

 夕刻、「案の定」と思わせられるニュースに接しました。死んでいたカラスから鳥インフルエンザのウイルスを発見したとの報道です。野生のカラスは、抵抗力に欠けたものは死に、あるものは生き残り、ウイルスと強さ比べをしながら進化し合うのでしょう。他方、人間の手にかかった鶏は、強くとも一緒に処分されたり無菌状態の過保護にさらされたりして進化の機会を奪われます。こうした現実は、どのような結果に結びつけるのでしょうか。『次の生き方』では、「文明のジレンマ」という一項を設け、人間中心主義が生じさせた国際的な悲劇を紹介しています。

 月曜日は、連日の畑仕事で身体がなまっていましたからアンズの洞(うろ)詰めに当てました。妻は寸暇を惜しんでキッチンに立ち、冷蔵庫や調理台などの整理をしていました。留守番をする私のために、食材や調味料、鍋や食器などの収納のし直しです。妻は手当たり次第にそれらを収納しがちな人ですが、魔法使いのように手早く次から次と美味しい料理を創りだします。私は決めたところに決めたように仕舞うタイプですが、メニューはワンパターンです。大垣の自炊で身につけ冬型と夏型の二通りのレパートリーから一歩も出るつもりがありません。

 火曜日、妻は昼食を済ませてから出立しました。私は終日、庭の南東部分の整理に当たりました。苗から育てた楓や鳥の糞から育ったハゼなど10数種100本ほどの木がそだっていますが、剪定だけでなく、富有柿の洞にセメントを練って詰めたりハゼをさばいたりしました。夕食は妻が煮こんでおいてくれた「おでん」でした。今ごろ妻は、生徒さんや陳さんなど大勢の人に助けてもらいながら会場の飾り付けをしているのだろうな、と考えながら味わいました。

 急遽、東京に所用をかねて一泊旅行をしてきました。大病を患った知人から展示会場なら行けると知らせてもらえたり、東京の仲間から「一席設けるから出て来い」といわれたりしたからです。所用は、平凡社で「束(つか)見本」を見せてもらったり「クレヨンハウス」を見学したりすることでしたが、訪ねてよかったと思いました。展示会場では、商社時代の友と旧交を温めたり、予期せぬ大勢の知人に訪ねてもらえたりしました。2日目の夜は、かつて拙著の編集でお世話になった人と落ち合い、素敵な居酒屋に連れていってもらい、ほろ酔い加減で帰ってきました。東京は、観測史上最も温かい3月11日でしたが、翌日は一転して冷えこんでいました。

 土曜は大垣で市民環境フェスティバルが始まり、市長や市議会議長など来賓のお迎えもしました。フェスティバルは、横着者の私のことですから実行委員長をはじめとした実行委員に任せっぱなしですが、それが素晴らしい結果に結びつけているようです。子ども連れの見学者が多く、それ自体で半分は成功したようなものです。こんな状態で、外食が多くなり、まだまともに料理の腕を振るっておりません。


アンズには、あちらこちらに洞ができていました。樹皮に隠れて進行していた洞もありました。いわば皮膚病のような細菌に侵され、死んだ細胞がある部分に雨水が溜まり、腐らせたのでしょう。雨水が溜まらないようにすることがいかに大切であるがよく分かりました。

2日をかけた庭の南東部分の手入れから出た木の枝や幹などです。苗木から育てた数本の楓、3本のアメリカハナミズキ、各1本の富有柿、ヤマツツジ、五島列島からきた白椿などに加え、自然生えのマユミ、数本のヤブ椿、10本近いハゼなどが生えていますが、その手入れです。富有柿の剪定と洞詰め、楓の枝落し、椿の切り詰め、ハゼは3本を残して切り取りました。かくして、枝垂れ梅やオオヤマレンゲを育ちやすくしてあげたわけです。
大きな椿のてっぺんにハトが巣を作っていましたから剪定作業を途中でやめました。前日に続いて剪定を再開しますと、またハトが飛び立ちますから「もしや」と思って調べますと、卵が二つある巣がありました。上空からは丸見えのはずですが、トンビやフクロウなど猛禽類が減ったのでしょうか。いずれにせよ、雛が巣立つまで、剪定は中断です。
コロ(乾燥させた鯨の皮)です。黒い部分が外皮で、白い部分は皮下脂肪でしょう。敗戦後の貧しい食料事情のころは、おでんの具にいつも用いましたが、他の料理に用いた記憶はありません。久しぶりで、昔の味覚を思い出しながら、夕食のおかづや寝酒の肴として賞味しました。

クレヨンハウスを訪ねてよかった、と思いました。外国旅行をした時に自慢できることが増えたからです。拙著『「想い」を売る会社』では、アメリカで世直しのために玩具会社を立ち上げた少壮外交官を紹介していますが、クレヨンハウスもよく似た考え方の下に運営されているのでしょう。子どもが生き生きとしていました。

束見本の表紙デザインに、私は感激しました。「デザイン=ゴミ」といった一文も含んでいる内容ですが、「一気に読んでしまった」といったいただけた人に、デザインを担当してもらえたようです。大勢の人たちにも同様に気に入っていただけるとよいのですが。

松屋・銀座の美術画廊です。これまでより出展数は少なく、しかもディスプレイはシンプルでしたが、寂しい感じをまったく与えなかったようです。いつも生徒さんや義妹に助けてもらって展示会を切り盛りしていますが、このたびも盛況裏に終えられそうです。