世界の中の日本 05/01/23

 「日本の司法は腐っている」と言い残して青色発光ダイオードを発明した日本の学者がアメリカに帰って行きました。その人は、日本の司法は三権分立によって手にしている権限を、日本のためになるように世界を視野に入れて生かしているのか、と疑問を呈したのではないでしょうか。それはともかく、このたびの裁定は、世界の優れた科学者を日本に引き付けるのでしょうか。この人が次に独創的な発明をした時は、その成果は日本に微笑みかけるでしょうか。

 7年前に私は、企業の社会的責任をとりあげた『「想い」を売る会社』を著しました。実業界では今、「企業の社会的責任」は流行語のようになっています。法曹関係者も、法曹界の社会的責任を明らかにして、その想いを国民に支持してもらえるようにすべきです。法曹界では、白黒を明確にするよりも和解で片付ける方が重んじらがちと聞いていますが、あいまいさを残す和解を避け、世界に通じる国民意識を育てようとすべきではないでしょうか。

 法律は、権力とか経済力などの面では一番弱い立場の人も、それさえ守れば堂々と生きてゆけるようにするために存在すべきだと私は考えます。そのために、個々の争いの白黒を明確にして何が正しいのかを明確にしてゆき、解釈次第でどうにでも運用できそうな印象をなくすべきではないでしょうか。さもないと、強い立場の人が己を利するために都合良く運用する余地を残してしまい、弱い立場の人を腐らせ、活力のない国にしてしまいかねません。

 先週触れた、使い慣れた4口コンロが付いた一体型オーブンの問題は、企業の社会的責任が問われる問題です。企業にすれば、いつまでも部品交換などに応じていたら儲からない、と言いたいのでしょうが、そこを儲かるようにするのも社会的責任です。仮に、これまでのやり方で平均的な消費者に生涯を通して3台の一体型オーブンを買わせようとしていたのなら、これからはその3台で得られる利益と相当の利益を1台の販売とその補修や修繕で得られるようにして、ゴミを減らすなどの合理化を計るべきです。もちろん新デザインを次々と求めたい人もいるでしょう。その場合は、新製品に伴う資源枯渇、環境破壊、ゴミ増大などをあがなえる価格にして、環境への負荷とか未来世代や野生動物への負担を押し付ける罪悪感に苛まれなくても良いようにすべきでしょう。『次の生き方』で提案したように、企業は「最小の消費で最大の幸せや豊かさを追求」する持続性のある社会を目指して意識や体質を転換することが求められる時代になっています。

 週の前半は時雨がちでしたから屋内に引きこもりがちでしたが、後半は晴れ間も見られましたから小刻みに庭に出て、アイトワで一番年輪を重ねたモミジだけでなく、赤い花をつける枝垂れ梅の剪定にも手をつけました。その間に、半日を市中での審議会に当てたり、別の日の半日をアイトワ見学の学生に割いたりしています。審議会の様子は情報公開されていますから割愛し、調理師を養成する学校の先生が引率して訪れた学生の方の様子を少し書きとめます。

 その日の朝、EUが子どもの肥満を防ぐために「お菓子の公告を規制する」ことに決めたとNHK−TVが報道しました。私は『次の生き方』でタバコの規制も例に引き、大量生産、大量消費、大量廃棄を問題にするよりも、むしろ大量販売のあり方にこそメスを入れるべきだと述べています。だから、EUの動きはこの方向に沿っているように見て、調理を学ぶ若者に、世界を視野に入れて食の問題を調理する心構えで取り組んでほしい、と期待を寄せました。つまり、口卑しい人にも気に入られて大儲けをしようとする人になるのではなく、食を通して信頼や尊敬をしあえる人の環を広げてほしい、と訴えたわけです。エコライフガーデンに注目して引率された先生も、学生たちにそうした期待を寄せられているようだと見たわけです。充実した時間でした。

 

樹齢50年ほど、移植して45年ほどのモミジの枝をさばきました。枝といっても、この一本の切り取った枝で、冬でも一ヶ月は風呂を沸かせそうです。アイトワのシンボルかのように、門扉を入った真正面に植えたもので、夏場は愛犬金太に木陰を提供します。枝を切り取る前は、さんざん思案をしたのですが、切り取ってみると、どうしてもっと早く切り取っておかなかったのか不思議になっています。

剪定を始めた紅梅の枝を生けた水槽です。見学に来た学生は、ここでもアイトワ精神の一端を学びました。アイトワでは、草や木のためを考えて枝や花を透かし取り、それを生かして活けたり燃料にしたりしています。アイトワは冬休みに入っていますが、日本水仙を随所に生けています。倒れた花を切り取って飾っているのですが、その球根は花にとられる養分まで回ってくるといって喜んでいることでしょう。

10日ほど前に剪定した白梅の枝が花を咲かせ始めました。この水槽にもたくさん紅梅を加えました。切り取った枝は、暖かい部屋に活けられたものから順に花を咲かせ、長い間にわたって愛でられます。もちろん花が終われば、灰か堆肥になって土に還り、次の花につなげます。学生には「つながった生き方」の大切さにも気づいてもらいました。
司法と行政はうとんじあってはいけないはずです。国の将来を揺るがしかねない問題は、最高裁まで争って何が正しいのか国としての合意を形成するのが先決です。水俣事件関西訴訟では最高裁の判断が出ましたが、行政は多くの民が得心できる動きをしていないように見えます。本来は、司法が下した判断に従って、行政は過去に和解で済ませた行政の判断も見直すべきです。さもないと、行政を信頼する民の心や国を愛する民の心を萎えさせます。
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この声に、私は同情します。企業が「モノ」にこだわる民を増やして来た弊害でしょう。これからは、次々とゴミになりかねないモノにお金を支払わせようとするのではなく、使いやすさなどの機能や速やかな補修などのサービスにお金を支払う民に育て直すべきです。さもないと世界のゴミ箱のような国にしてしまいかねません。
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迎え入れた学生です。説明時間を予定の二倍にするほど熱心な人たちでした。そのあとも小一時間ほど、妻の人形の見学やワークショップの見学で留まっていました。机の上での勉強だけでなく、体験(指を切る)や経験(講義通りに調理する)を優先する勉強を好む人たちですから、存在感がありました。アイトワが日本で最初の禁煙喫茶店であることも伝えました。

剪定を途中で止めている紅梅です。次に剪定を再開する日は、妻が臨時で人形教室を開く月曜日になりそうです。その日が晴れたら再開します。教室展(2月3日〜6日京都文化博物館)の準備で追い込み中の教室の皆さんに枝を少しづつお持ち帰り願える日に切り取りたいのです。