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職人の時代 05/07/31
「焚きつけにでも使ってください」といって、妻が半切りを風呂の焚口に置いてゆきました。見ると、大きなひび割れが一箇所ありました。燃すには惜しいので直すことにしました。暑くて庭に出られない日中を生かし、失敗を重ねましたがなんとか仕上げ、妻に喜んでもらいました。これに調子付いたわけではありませんが、植木鉢も直しました。ハッピーを散歩させていて妻が割らせた鉢です。ハッピーの性格を考えると、リール式の紐を伸ばして散歩をすればどうなるか容易に察しがつきそうなものですが、それを忘れて紐を緩めてしまうところが妻らしさです。かくして今週は、世界に二つとないものがわが家に2つも加わりました。
何ヶ月か前から手すきの日に訪ねてもらうようになった若い大工さんがいます。昨年の初秋に、薪ストーブの煙突にコールタールを塗ってもらうことから付き合いが始まり、これまでに出窓の庇(ひさし)を伸ばしてもらったり、薪ストーブ自体も部分的に塗り直してもらったり、母屋の雨戸を修繕してもらったり、テラスの石畳のメジを詰めてもらったり、居間の食器棚に地震対策を施してもらったり、とさまざまな仕事をしてもらっています。
これからの時代にうまく対応できる大工さんを、私は求めています。その願いを現実化できそうな若者と出会ったわけです。昨年、長年付き合ってきた (人形工房や喫茶室などを手がけた) 工務店の社長から紹介された人で、元はその工務店の従業員でした。転職した工務店が倒産したというのです。この社長は、私の助言を聞き入れてもらったようで、規模を縮小する生き延び策をとりました。その時に、この若者だけは「残そうとしたのですが、他に引っ張られて行き」、夫人と二人だけの会社になりました。今は得手とする仕事で、採算があうものだけを引き受け、必要に応じて職人を臨時で雇うやり方をしています。おかげでわが家のメインテナンスをしてもらえているのですが、「これから補修や修繕は直接使ってやってください」と頼まれたのです。
これからは、人並みの大量消費型の生き方に幸せや豊かさを見出すのではなく、分相応のアイデンティティを日々確かにしながら自己実現するところに幸せや豊かさを見出す生き方が見直されるはずです。そうなると、耐用年数の短い家屋を次々と使い捨てるような人生ではなく、一つの家を大事に使い込む人生になるはずです。一人一人の顔や性格が異なるように、個性的な人生を自ら彫刻のように刻み出そうとすれば、創造の場としての根城が必要です。
人生をトータルデザインしようとすれば、相棒となる大工さんなどにめぐり合い、内面性や家族の増減とか加齢などを大切にして建て増しや補修などをしながら根城を作りあげたくなるはずです。大工さんにとっては、手がける家屋の数は少なくなるでしょうが、メインテナンスなどのために多くの時間を割き、それで多くの収入を得ようとしてほしいものです。修繕や補修は、手塩にかけて作った人に頼めば無駄が減り、極端に割安になります。その割安になる分を大工さんと折半するような考え方をすれば、双方をハッピーにするはずです。
梅雨明けの後、久しぶりの雨がありました。早々と襲来した台風の余波であるところは心配ですが、恵の雨になりました。土が緩んだことを幸いとする庭仕事もできました。講演用の資料造りや幾つかの原稿つくりなど溜まっていた屋内の仕事にも励みました。私だけでなく妻もハチに刺されましたが、生垣の刈り込みなどもできました。その間に、京都の学者とジャーナリストを中心とした飲み会に久しぶりで参加したり丹後のプロジェクトに関する打ち合わせの来客を迎えたりしています。9月にアイトワ塾は丹後合宿を計画しています。4頭目の野蚕はどうなるのでしょうか。栗の葉を食べるばかりで、29日の夕刻時点でまだ繭を造る兆候はありません。
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補修した半切りです。乾燥が不十分な木であったのか、ヒビが入りました。曲面を削るカンナなど持ち合わせませんから、彫刻刀とサンドペーパーを駆使し、半日をかけました。2000円足らずの品ですから、新品を買い換える方がいいのにと思う人が多いでしょう。でもそれがゴミを増やすだけでなく、人間までゴミのように使い古させる社会にしている恐れがあります。
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妻がハッピーに割らせた2つ目の植木鉢です。もちろん妻は「割らせてなどしていません」と主張しています。要は、それも含めてハッピーや妻の個性でしょう。1000円ほど出して新しい鉢を買うより、修繕した方が、今後の割れる率が下がるように私は思うのです。わが家では、半切りであればまだ風呂焚きに生かせますが、植木鉢はゴミになるだけです。
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若手大工さんの軽トラックを覗きました。わが家が多様で難しい注文をするようになったものですから、私が欲しくなるような車を乗り回し始めたようです。これからの社会は、修繕や補修などによって資源やエネルギーの節約とかゴミの減量化などを心掛ける生き方が求められます。それは経済的な面からよりも、自己実現など人間を大切する面から迫ることが大切になると思います。
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寝室の一部です。柱に手すりをつけました。白木の天井と畳。襖と障子。そして土壁といった呼吸する素材で6面を囲まれた部屋ですが、歳のせいでしょうか夜中に起き出すことが増えました。だから、寝惚け眼でこけないように、いわば転ばぬ先の杖です。
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庇を伸ばす補修をした母屋の出窓です。わが家の一番貧しい時代に建てた家ですから、出窓の庇などは貧弱なものしか付けることができませんでした。壁も灰色のモルタルでした。後で補修できるものは、ゆとりができてからすればよい、と私は考えてきました。壁は母が生きているうちに改めましたが、庇まで直せなかったのが残念です。
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母のために、随分昔に造った踏み石です。母が歳を重ね、居間から庭に出にくくなったときに造りました。踏み石を買ってしつらえてもらうことも考えましたが、母の願いを聞きながら、ありあわせの石を使って手作りしています。ぼつぼつ私も、こうした踏み石を作っておいてよかった、と実感する歳になったようです。
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庭に道導(みちしるべ)を幾つか作り、雨で土が緩むのを待ち、立てました。これまでの「体を甘やかす生き方」よりも「心を伸びやかにする生き方」を求める人たちに、気持ちよく庭めぐりをしてもらいたいのです。プライバシー空間ですし、犬だけでなくハチなどの昆虫も生かした庭の管理をしていますから、気も使います。
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