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アイトワ循環図

天蚕(てんさん)と付き合った 05/08/07

 7月9日、アイトワ塾の幹事をしている友が3頭の野蚕(やさん)を連れてきました。蚕(かいこ)は白っぽいイモムシで桑の葉を食べますが、この野蚕は数ある野蚕のうちの一種で、栗やクヌギの葉で育つ天蚕とよぶ蚕より大型で薄緑色のイモムシです。そのひく糸は蚕の数十倍もするそうです。わが家ではこれまでに、ときどきクヌギ林で羽化した後の繭を見つけていますし、一昨年は幾度かにわたって、この友はわが家の栗の葉をとりにきています。

 今年も一度、栗の枝をとりにきましたが、その折に天蚕が繭を造り始める時の美しさを聴かされました。次第に透明感をおびてゆく神秘的な美しさ(彼は口では言い表せない美しさといいました)に心を惹かれたのですが、それを目の当たりにさせてもらうことになったのです。雨が「小止みの今の内に、大きな(栗の)枝を一本用意して置いてください」との電話があり、濡れてもよい服装に着替えて高枝切りを持ち出し、一枝切り取って待ち受けました。

 激しい雨のなかを友は駆けつけ、虫カゴから私が用意した枝に天蚕を移そうとしました。「しっかりと後ろの足で(枝を)掴んでまっしゃろ」と友が言うように、頭と前の方の足は新しい枝に移っているのですが、後ろ足はカゴから出した小枝を掴んだままでした。だから友が手を放すと小枝ごと落ちました。この3頭が移動を終えるには相当の時間がかかりそうだとみてお茶の時間にしています。友は、天蚕が水にはまっておぼれてはいけないからといってバケツに新聞紙で蓋をし、糞を落としますからといって新聞紙を敷いて帰ってゆきました。

 3日目になると栗の葉が7割がた食べつくされました。だから、新しい枝を2本用意して、妻に手伝ってもらって加えました。4日目の朝、天蚕を探そうとして枝に触れたのですが、見事な保身策を講じました。頭と前足を枝から放し、後ろ足で体を支えて反り返ったのです。擬態です。栗の葉と似た保護色で、栗の葉と似た大きさのイモムシが、栗の葉が枝から出たようなポーズをとったわけです。こうなると、その気になって探さないと見分けにくいぐらいです。

 7月15日、わが家に来てから6日目の朝7時45分、すでに一頭は繭を作り終えており、他の一頭が作り始めたばかりでした。30分後にその透けて見えていた天蚕の姿がすっかり見えなくなりました。それにしても、大きなイモムシがどうしてこんなに小さな繭の中に入れるのか、いまだに信じられません。どのようにして体を回転させるのか分かりませんが、とにかく丸めた体がぴったり収まる繭に収まり、蛹になるのでしょう。残る一頭は繭を作る兆候すらありませんでした。

 18日の朝、妻が心配そうな声で、最後の一頭が病気ではないか、と訴えました。艶がなく、少し縮んだようだし、葉のない枝で時々痙攣しており、葉を食べていないと騒ぐのです。私は繭を作る兆しではないかといったのですが、水をやらせてほしいといいました。野生なら雨にかかっているわけですから、気がすむようにさせました。午後、天蚕は場所を変えており、栗の葉ではなく栗の枝に絡まっていた蔓の葉のところでうごめいていました。

 19日の朝、妻の明るい声で察しが着いたのですが、半ば繭を作っていました。翌朝、一番小さな繭でしたが無事に仕上げていました。20日の夕刻、アイトワ塾のあった時からもう一頭加わったわけで、まだ繭を作っていません。天蚕は蛹になってから一ヵ月で蛾になるそうですが、メスとオスで姿はどう異なるのか。これまでそれだと思って見ていた大きな蛾は天蚕だったのか。興味津々です。この天蚕を連れてきた友は籠の中で飼っていますから擬態を知らなかったようです。風除室で羽化させることによって、また新たな発見をしてもらえるかもしれません。うまく雌雄が混じっており、お気に入りのペアーができたら、産卵も見ることができそうです。


新しい住処に移動させた天蚕です。蚕と比べると体重は4倍ほどありそうです。プラスチックのバケツに水を張り、そこに生けた栗の枝に棲まわせたわけです。「まもなく葉を食べることを止め、まず3枚ほどの葉を口から吐いた糸で束ね、そこで繭を造り始める」と聞かされました。体をくるむようにして糸を吐きながら繭を作り、その中で蛹になるわけです。

天蚕の口です。この口で栗の葉を削り取るようにして食べます。友は、これだけの葉がついた枝ぶりなら三頭の食べる分も含めて十分だろうといい残して帰りましたが、すぐに不安になるほどの食べっぷりで、3日後に補充することになります。

3日もせぬうちに葉は次々と食べられ、あらかたなくなりました。妻に手伝ってもらい、古い枝を上下から挟み込むようにして新しい栗の枝を2本加えた状態です。直径5〜6mmの黒い糞をたくさん落としていましたが、それは鉢植え植物の根元に肥料としてまきました。
擬態です。危険を察知すると、速やかに体を反らし、不動の体勢に入ります。実は、天蚕が来た翌朝、3頭とも見当たらずに驚かされています。保護色であるだけでなく、体形も捕食する鳥などの目をごまかすようになっているのでしょう。その上に擬態です。観察の都度二人で3頭を探しましたが、目の前の擬態姿を見落とすことがよくありました。
6日目に2頭目が繭を造り始めたところです。中に納まっている天蚕の姿が透けて見えています。見続けていると動きがないように見えるのですが、半時間ほど過ぎてから見直しますと、すっかり体が見えなくなるまで繭を作っていました。

7月20日の夕刻にやって来た4頭目ですが、29日の夕刻になってもまだ繭を作りません。友は縮んだので心配になったといって連れてきましたが、これまでに3回新しい栗の枝を加え、幾度か霧を吹きかけてやりました。こころなしか、大きくなったように思います。

1頭目の繭です。この1頭目と2頭目はほぼ同時に繭を造りましたが、3頭目との間には4日間のずれが、4頭目とは未だにどれだけのずれが生じるのか分かりません。同時に産み付けられた卵から孵化した天蚕のはずですが、何がそのずれを生じさせるのでしょうか。