手描合羽刷木綿の笹文暖簾

 

 手描合羽刷木綿の笹文暖簾。のれんわけをした本家が今日用いている暖簾、友の家にある暖簾、あるいは柳宗悦展で飾られていた暖簾の4張りです。いずれも明治期から昭和初期(敗戦前)にかけて生み出されたものでしょう。本家から贈られた暖簾は、本人にとってだけでなく、一家の誇りの品として引き継がれ、心の支えとなっていたに違いありません。いたみが進んだり色があせたりすると新調し、古くなったものは家宝として大切に保存したのでしょう。宗悦展で見かけた暖簾も、ご本家が作らせた暖簾の一つであり、どうして宗悦の手にたどり着いたのかをさかのぼれば、きっとほのぼのとした物語にたどり着くことでしょう。

 これらはいずれも暖簾職人が手作りしたオリジナルですから、職人の個性が読み取れます。当時も今も、職人の勤労にはデザイン能力が内包されているわけです。つまり、「勤労=労働+デザイン」であり、腕の良い職人は「勤労=デザイン×労働」であることでしょう。

 戦後は、勤労観が変わり、技能や技術などにとどまらず信用を重んじる精神まで身に付けることを求めて奉公する人は減りました。働かせる方も、個人の技能や信用力などに頼らずともよいように機械化を進めたり社会制度を変えたりしたはずです。だから、円滑に代替が利く分業化した単純労働者化を進められたのでしょうし、企業の巨大化も可能にしたのでしょう。

 近年では、大きな企業の立場が強くなり、そこで働く専業化分業化されたホワイトカラーやブルーカラーなど賃金労働者がリストラにおののくようになっています。