母が残した宝物

 

 「どうして今頃出てきたのかしら」との声に誘われ、妻が手にしているものを見ますと、それは私がお宮参りの時に着せてもらった羽二重の衣装や亡き父母の和服でした。母屋の衣装箱を整理していて見つけたのです。

 その中に父の袴や母の絽の留袖がありました。写真(左)は、「このたたみ方を覚えなくちゃ」と妻が自分自身に言い聞かせていましたから撮った父の袴です。

 妻は、私が幼い頃に身につけていた靴や着物が出てくると、なぜか嬉しそうです。今の憎たらしい私にも、あどけない頃(右)があったことを確認し、おおらかな気分になるのかもしれません。それは私も同様で、妻が小憎らしいことを言ったりしたときは、私が中学生になったときに生まれていたことを思い出し、「大目に見てやるか」と心に言い聞かせています。

 それはともかく、近く妻は結婚式に招かれているようですが、出てきた絽の留袖と「弓月さんで分けてもらった夏用の綴れの帯で出かけます」と、喜んでいました。それはそれでいいのですが「どうして今頃出てきたのでしょう」と叫んだのがこっけいです。7回忌が済んだ今頃になってやっと母屋の衣装箱の整理に手を付けたからにすぎないのに、「どうして今頃」と驚くことはないだろうと思います。