素晴らしい産地

 

 この度も有名な「らんぷ屋」の「藍染工房」から訪ねました。初めて「すくも」@を手にとってみることができました。「すくも」とは、刈り取った藍草を醗酵させたうえで乾燥したもので、灰汁の入った甕に入れて醗酵させて染料にされます。その過程が写真パネルで示されていました。その説明をする染色に携わっていたひとは、若くて美人の女性でしたが、自身満々でその手Aを見せてくれました。

 ついゴム手袋を脱いでしまうのでしょう。「すくも」で1年かけてかせ糸を手染めし、だんだん濃い色の染め上げるBわけです。だから、より発色をよくしようと思うと手袋越しではどうしてもまどろこしくなるのでしょう。「藍染工房」では徳島県の藍で作った「すくも」を用いており、1sが2万円もするようで、とても高価なものです。

 桃太郎マークで有名な「JAPAN BLUE」も訪ねました。そこには1本20万円のジーンズCもありました。需要者の体を採寸して仕立てるオーダーメードのジーンズで、しかも1年もかけて手染めをした糸を用いて(隣の部屋にあった手機で)日に50cmしか織れない生地を用いている、とオーダーメードに応じる人が教えてくれました。その生地を2.5mから3mほど用いて1本ずつ縫い上げます。つまり、ここではすべての段階に関わる人の顔が見えるわけです。

 オーケストラのように、関わっている人が需要者の満足や感銘を願って心を1つにしていることが分かるのです。その満足が「私たちにとっての報酬だ」。そうした満足感を引き出すために心を1つにできた喜び、それも「私たちにとっての報酬だ」と語っているように感じられるのです。それを私は素晴らしい産地の条件のように見ています。その満足という報酬を分かち合うために金銭という手段を人間は考え出せたのではないでしょうか、だから私たちは、今も祝儀袋などを大切に生かしているのではないでしょうか。

 苦しくなる産地は、この満足や感銘という報酬がおろそかにされています。手段であった金銭を目的にしてしまい、だから金銭分配のバランスを崩してしまい、一部の人がその取り分を多くしようとするなどして産地の姿を不透明にしてしまいかねない。だから需要者の満足や感銘を引き出しがたくなる。それを無理して引き出そうとするから、需要者の虚栄心をそそりがちになり、需要者の喜ぶ姿に感動の心ではなく、つい「してやったり」とでもいったような気分で受け止めがちになってしまう。その産地は次第に見放されかねない。
「すくも」@

 

その手A

 

染め上げるB

 

1本20万円のジーンズC