私流に造って見せました

 

 妻とは幾つかの点で作法が異なっていたと思います。

 白菜を使いましたが、必要なだけ葉を欠いたあとの白菜を、まずラップに包んで冷蔵庫に戻しました。カマボコを用いましたが、まず板から切りはずして必要なだけ切り取り、板をはずしたカマボコをラップに包み、冷蔵庫に仕舞いました。そうしている間に、昆布をいれた鍋を火にかけて温めながら出し汁を造っています。

 白菜を刻み、青い部分をまな板に残して、白い部分とシイタケとあげを鍋に放り込み、湯が煮立つのをまちながら、碗に取った八丁味噌を湯で溶いています。湯が煮立つと同時にほうとう(太目の生うどん)を放り込み、10分ほど煮た後、白菜のみどりの部分を鍋に入れてかき混ぜながら溶いた味噌を流し込み、その上に豚肉とカマボコを置いて蓋を閉め、1分まったら出来上がり。

 妻はほうとうを15分ほど煮たようですが、私は11分ほどで火を止めました。妻は「おいしい」「少しおうどんは固めの方がおいしい」と言いましたが、「これからも造ってくださいね」とは言いませんでした。代わりに「造ってもらうと、おいしい」と付け足していました。私は心の中で、妻が寝込みでもすればいつでも造りますよといいながら、これまで1度もそうした事態に立たせなかった妻に感謝しています。

 中学生のときに母が寝込んだことがあり、寝床から聞こえてくる母の指図に従って昼食を作ったことがあります。そのときに「大人はすごいなあ」と感心しています。

 氷を入れただけの冷蔵庫からカマボコを取り出しますと、ぬるぬるしていました。私一人なら捨てていたところです。腐る前兆だったのでしょう。母の指図に従って、水の中でもみ洗いをしますと、ぬるぬるが取れ、キシキシとした感じになりました。そうして煮れば問題ないといわれて従ったのですが、なんら問題は生じず、おいしくいただけました。

 電気冷蔵庫や電気炊飯器もなかった時代ですから、夏はご飯もすぐに臭いがしたり、カビが生えたりしました。臭いがしたぐらいなら、水で洗うなどして粥にして食べたものです。カビが生えると洗ってカビをとった上で煮込み、糊にして、障子や襖の破れを補修する日になりました。

 賞味期限などない時代でしたし、不要でした。1度も食当たりにされた記憶はなく、大人は偉いなあと感心させられていた時代です。