美意識や価値観

 

 「桜守り」としても知られる佐野藤右衛門さんの「チョッと」論に惹かれました。京都迎賓館の庭造りでも「センチメートルは止めましてん」とのこと。cmではよい庭は出来ないし、よい弟子が育たないから、というのです。

 「チョッと、は一寸と書きまっしゃろ」、石を「チョッと」「もうチョッと」といいながら据えると、指図する方もされる方も最適の場所を推し量りながら働くことになり、学びあえるというわけです。労働を作業にさせてはいけない、とのヒントでしょう。そのあと、「チョッと、もうチョッと、と言うてたらどこまでも行けまんねん」と、爆笑させました。

 副棟梁の井上剛広さんの「用と景」論と「ライトアップ」に関する意見に惹かれました。人間を自然の一部と見る想いの持ち主では、と感じたからです。

 「用」と「景」とは「機能」と「見かけ」とも言い直せそうですが、前者は人の営みが作らせる庭、つまり生活の営みと一体の庭、強いて言えば人と庭が一体であり、人を生活空間である庭の一部とでも見る考え方でしょう。後者は人の技が貴族など施主の嗜好にそって作る庭、施主が美の対象とする庭でしょう。

 「近頃、ライトアップが流行ってますが、朝早く起きて眺めてもらいたいものです」とのソフトな言い回しにも共感しました。ライトアップに対しては、感動する人もあれば、心を痛める人もあります。ライトアップに怪しさや卑しさを感じる人もあれば、私は気の毒に思うようになっています。

 神戸がルミナリエを始めたときに招かれ、私も「Oh!」と声を上げました。だから、東京タワーやエッフェル塔のライトアップはまだしもと思いますが、生身だし動けない植物のライトアップは残酷で、気の毒だと思います。植物は動物以上に光線の影響を受けますし、時には天敵を呼び寄せる誘蛾灯にもなりかねません。第一、地球温暖化が問題になっているときに、子どもの未来を暗くすることは避けたほうがよいはずです。