問題は、工業社会が破綻しつつあることです。それは、百貨店の既存店売上高が過去10年間連続減少という事態にも現れていますし、それでもなお日本の消費者支出が先進工業国の中でもずば抜けて多いことからも推量できます。にもかかわらず、わが国の百貨店業界は、営業日を増やしたり、売り場面積を増やしたりしています。
工業社会が可能にした大量生産を、大量販売と大量消費をへて大量廃棄に結びつける社会のあり方自体の問われているのです。消費者は大量消費を慎み始めているのに、百貨店は巨費を投じて大量販売策に力を入れて乗り切ろうとしているわけです。それでは問題の解決には結びつこうはずがないだけでなく、社会的には莫大な資源の無駄などを強いることであり、私の目には反社会的な行為にすら見えかねません。
このたびの三越と伊勢丹の統合に加えて、大丸と松阪屋、それ以前の西武とそごうの統合などの動きだけではなく、近鉄は日本1の高層ビルをつくり日本1の売り場面積を準備しつつあるなど、お互いに食いつぶしあうようなことをしています。そのようなのんきなことをしていて良いのでしょうか。業界を挙げて、次の時代に備えた動きに入るべきときではないか。
問われているのは。百貨店業界がどのように未来を見ているのか、ということです。幾度も触れてきたように、百貨店は工業社会が曙のときに誕生しており、庶民にも贅沢が許される時代になったことを予感させたり、それを現実化させたりする役割を担っていました。だから百貨店は「欲望を呼び覚ます殿堂」とか「贅沢を民主化した」といった評価を受けました。今やその役割は完全に終わっており、異なる評価を求めなければならない時代なのに、過去の延長線上に繁栄を見続けているようなことをしています。
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