自国の成り立ち

 

 近年、渡来系の弥生人と先住民である縄文人の関係や、縄文人とアイヌ人の関係などが次第に明らかになっています。早晩、アイヌ人は渡来系の弥生人と融和しなかった、あるいは融和する機会に恵まれなかった縄文人であったことが広く認識されるようになるのではないでしょうか。

 中国の雲南省などの少数民族を訪ねますと、今日の日本を支配している民族のルーツではないかと肌で感じさせられる人々としばしば触れあいます。照葉樹林地帯の特色でしょうが、文化がとても似ています。豆腐、納豆、こんにゃく、なれ鮨、ちまき、餅などの食べ物から、住居のありようまでが偶然の一致とは思えないほど似ていることがあります。

 前回のニュージーランド旅行でホームステイしたお宅は、先住民マソリ族の夫とイギリスから流入した家系の妻から成り立っていました。その妻は、血筋をさかのぼって調べ、数百年ほど明らかにしていました。それがお互いの心の支えになっているようで、仲良くしていました。同国は植民地政策がうまくいった好例だそうです

 そうした人たちが、「美しい水や空気、土を、子や孫に引き継ぐことこそが大人の使命」と考えています。それに加えて勇気や希望を授けたら、子どもたちは独自の人生だけでなく国も切り開いてゆくのではないでしょうか。

 阪神淡路大震災のおりに、取材で被災地に立ちましたが、えも言えぬ不安に駆られています。私たちは大切な物をつぶして、ゴミつくりに狂奔していたのではないか、との不安です。感受性が豊かな子どもから順に、その心を汚すようなことをしていたのではないかとの不安です。

 そのおりに2つの小文をまとめました。一つは「デザインの敗北」です。崩壊していたのはことごとく人間が関与した物でした。人間が作り出した物がことごとくゴミになっていました。他の一つは「自然の勝利」です。自然は強かったということです。野生動物の死体を見た人には出会えませんでした。事前に察知して逃げ出していたようです。古木はことごとく健在でした。

 本州側被災地の調査を、当時顧問をしていた会社(被災者救済にも貢献した東邦レオ社、社長橘俊夫、調査責任者木田幸男常務)にしてもらいましたが、270本あった古木はすべて健在であった、と造園学会で報告されています。

 少し横道にそれましたが、アイヌという先住の少数民族が現存していることを誇り、その後も照葉樹林地帯の文化を共有する人を受け入れて国を支えてきたことを喜ぶ風土をはぐくみたいものです。根無し草の空元気では先がしれているのではないでしょうか。ラッド首相はそこを心得ている人だと感じました。