映像を用いた3人の講演は説得力に富んでいました。北川先生は日本の凋落を危惧されていますが、芸術活動による村おこしの現状と効果などを報告されました。森本先生は里地里山を生かせば美しい生き方が待っていることを気付かせました。内藤先生も、わが国が危うげな立場や状態にある点を強調する切迫感に溢れた説得を試みられました@。
このシンポジュームで、環境省に里地里山保全専門官が誕生していたことや、わが国の里地里山適応地は国土の4割と知りました。3割ほどだろうと見込んでいた私は胸をなで下ろしました。その気になれば、なんとか日本人は生存し続けられる、と見たからです。古人の知恵と近代科学の成果を生かせば、1億2000万人が鎖国状態に陥れられても自給できるのではないでしょうか。
問題は里地里山の生かし方です。私は10年以内に食料パニックが巡ってくると見ています。パニックにしないために必要なことは、心構えです。里地里山の生かし方に精通し、今から手を打っておくことでしょう。そのときは露地栽培作物の地産池消が中心になるでしょう。種の蒔き時や育て方を心得るには最低でも2年はかかると思います。
もしそうなれば多くの舗装道路は、引っぺがして農地に戻す必要もあるでしょう。新たに造るどころの騒ぎではありません。ゴルフ場もいまから農薬を抜き始めておかなければいけないでしょう。でも、欲望の奴隷になっている私たちはその意識の転換を図れるでしょうか。
1960年末に初めてイギリスを訪れましたが、食糧の自給率は4割程度でした。その後次々と植民地を失っていますが、イギリスは早め早めに手を打ち、今は食糧自給率を8割にまで高めています。それがしっかりした施政者と国民のやることでしょう。その場合は、国民が真の教育を求めなければなりませんし、施政者も真の教育を施さなければなりません。
わが国は、工業化がいつまでも続くとの前提に立ち、この経済戦争の戦士を育てるような教育にいまだに終始しているように思われます。この点は、内藤先生がこのたびのシンポジュームでは強烈にアッピールされていました。
問題は、里地里山は守ろうとすれば過酷な労働と大量の残滓が伴うことです。だから、まるで地獄のような一面を示します。逆に、落ち葉や枯れ枝まで肥料や燃料として生かすなど創造的な生かし方をし、野菜や燃料や漢方薬などの実益を求めると、天国になることです。その余勢を駆って、絵画や作詞などの創造的な趣味に目覚めるのも楽しいことです。
後者の創造的な生き方に多くの人が真剣に取り組み、次の生き方に踏み出そうとしないといけない時期です。この点を拙著でふれた3分割法も例に引き、提案しました。施政者はこうした生き方に転換する人を優遇する政策(税制や補助金など)を早め早めに打ち出すことが必定です。わが国はそれに逆行しており、赤字の国債を増やす要因にしているようです。
里地里山シンポジュームのあとのレセプション会場で、テーブルに牛乳Aが幾本か並べられていました。パネリストの1人、アミタ株式会社の熊野社長が手土産に持参された牛乳でした。その人は、世直しを事業目的にして企業を道具に生かそうとしている経営者で、次代の産業社会のエースだと睨みました。いつの日にか、この牛乳が生みだされる牧場を観たく思っています。
レセプションの後、事情があって、少人数が地階のレストランに場を移し、歓談しました。そこで念願のビールBを飲みました。総長ビールと呼び慣わされている品で、古代エジプトのビールを再現させたと言われます。
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