亡き父を懐かしく振り返りました

 

 父に、「いっそのこと死んでしまえ」と怒鳴られたときに、私は父が「吾ごと以上に心配してくれていた」と感じました。そして、命に別状がないことを知って部屋を出てゆく父の背を追いながら、胸が熱くなったものです。

 ところが、看病のために枕元に残った母は、意外なことを言いました。こんなにお前が苦しんでいるのに、「お父さんは鬼のような人だ」と慰めたのです。このときに、私は母離れをしたように思います。字義通りにしか解釈できない母であったことを知り、世話になった親というよりも、いずれは世話を焼かなければならなくなる人、と冷ややかに見るようになりました。

 妻も母に似たところがあります。叱られても、何を叱られているのかを深く理解するよりも、叱り方や叱られていることを気にします。ですから、落ち着いて、順を追って説明したほうがうまく説得できます。つまり、損得で言えば、冷ややかに扱ったほうが、つまり嫌われないかなどを配慮したほうが得です。でもそれは、私の好みではありません。それをよしとしていたら、次第に人間関係を孤独な関係に追いやるようで心配なのです。

 それはともかく、父が死んでから、母は毎日のように「お父さんならどうしていた」だろうかと父を思い出し、懐かしむようになりました。それまでは、父に叱られるたびに、「今度お父さんが寝込んだら、頭を蹴ってやる」とよく言っていたものです。父は過去に、8年間の闘病生活をしており、母に看護をさせました。