小学生時代の母校での運動会からの帰路、落柿舎の前に広がる畑に差し掛かったときに、私の目は異常を感じとりました。
まず最初の一面の畑@は、ブルドーザーによって畝に仕立てられていました。すでに野菜の種がまかれているのかもしれません。ところどころに除草剤によって枯れた草Aが顔を出していました。土の中に鋤き込まれなかった野草でしょう。
次の一面の畑に目を移すと草ぼうぼうでしたB。ネコジャラシなどイネ科の草が種をたわわにつけていましたC。やがて除草剤をまかれて枯らされて、最初に見た畑のように鋤き込まれるのであろうと思いました。これまでにしばしば、一面真っ茶色になった畑を車の中から見ています。その後、その枯れ草ごとブルドーザーで耕されていました。
その次の一面は水稲Dとして用いた後で、稲穂が刈り取りを待っていました。古代米でしょうか、黒っぽい稲穂など、さまざまな稲穂Eが見えました。一部刈り取りが始まっていました。
最後の一面は、収穫を待っている青菜の畑Fでした。ねぎやブロッコリ−もありました。わずかに生えている野草は、除草剤がまかれたのか茶色くなっていましたG。青々とした野菜はいずれも、とても上手に育てられ、見事に見えました。
以上すべてあわせば数千平方mの畑ですが、幾段階かの耕作過程の畑に分かれており、異なる段階の畑を一緒に眺められたわけです。どれか1つの段階の畑だけが広がっておれば、見事な青菜の畑Hだと感心したり、草ぼうぼうの畑Bだといってあきれたりしただけでしょうが、さまざまな段階の畑を一緒に見ることができただけに驚かされました。
もっと驚いたことは、この畑の向こうにある落柿舎を背景にして記念写真を撮っている観光客がおおぜいいましたが、何の異常も感じていないようすでした。
もしこれが動物の飼育場であれば、異常だと感じたのではないでしょうか。
最初の飼育場は、きれいに掃除がされているが、ところどころに死体が転がっている。死体は、飼育場にある餌を横取りに来たカラスのようだ。どうやら、カラスは殺すが、飼育している動物にはきかない毒ガスでもまいて殺したようだ、とでもいった光景でしょう。
だとすると、次の飼育場は、カラスがうじゃうじゃと集まって何かをついばんでいる状態といってよいでしょう。そして、うじゃうじゃといるカラスは、やがて一網打尽に殺されて、土地の中に混ぜ込まれて整地され、次に飼う動物の飼育場にされる計算です。
その次の飼育場では、さしずめ干し肉にする動物を飼っていたようなもので、一部はすでに殺されて、肉を干し始めている光景です。そしてその一帯にはカラスの骨がちらっている。
最後の飼育場は、肉を生食するさまざまな動物を飼っており、見事に育ちつつあったと見てよいでしょう。その飼育場のところどころでカラスの死体が転がっており、それは飼育場の餌を横取りに来て殺されたのだろう、と推察してよいわけです。
もし、こうした光景を見た人がいたら、異常を感じるのではないでしょうか。特に、そこで日常的に食卓に上る食材を飼育していたら、カラスだけ殺す巧妙な薬に不安を感じたのではないでしょうか。
ちなみに、この一帯はシカやイノシシが毎夜のように出没しますが、この畑の作物が襲われるのはよほど餌不足になったときの話です。シカにはまだ襲われたことがないようです。
昨今、メタミドホスやメラミンが大騒ぎの対象になりましたが、すでに多くの人は、潜在的に、食品いついて不安を抱き始めているのかもしれません。もしそうだとすると、取り急ぎ、人体にとって、現在も使用が許されている薬物の許容量と、メラミンなど使用が認められていない薬物が実際に混入していた量のいずれが有害なのか、「それも問題しないといけない」と思いました。
使用が許されている毒物(毒物だから草を殺したり、昆虫を殺したりする。その余波で地中のミミズやバクテリアまで殺すから、化学肥料に頼らざるをえなくなる)には寛大で、禁止されている薬物にはあわてふためくようでは、異なる問題を生じさせかねません。
現実問題として、使用が許諾されていた農薬で、後日使用禁止になった例は山ほどありますし、今も使用が許諾されている農薬が、許容基準の範囲内で使われている保障はなく、基準以上に使われている可能性は多々ありそうに思われます。
それをまず問題にすべきかもしれません。しかし、もしこれを問題にしだしたら、あらゆる食品の全量調査になってしまい、また異なる新たな問題を生じさせかねないことでしょう。要は、人間の効率や経済性を優先する風潮が、人間が生まれ持っていたはずのバランス感覚を次第に麻痺させているのではないか、と不安になったしだいです。
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