お客さんに怒られてしまった
 

 金曜日の夕刻のことでした。喫茶店のお客さんを送り出し、短時間で晩餐の準備を整えようとしていた最中です。1本の電話がありました。時々かかってくる不躾なセールスマンの声、と聞き間違えた妻は、「この忙しい最中に」といわんばかりの不躾な発言をし、「それが客に対する言葉か」とのお叱りを受けたのです。

 妻は私と違って、そのような発言をする人ではないと思っていました。案の定、それだけに、とてもしょげ返っていました。ですから私はあまり叱りませんでした。

 お客さんでよかった、と思ったからです。怒りをぶつけ返せる人が相手でよかった、と思ったわけです。逆に、「怒らせてしまった」と、何が原因や理由であったのかが分からないままにしょげ返ってしまうような人が相手でなくってよかった、と思ったわけです。

 次のようなことが、今週の火曜日にあったことを思い出しました。病院で血液検査があったのですが、その折に看護婦さんが3度も採決に失敗したのです。看護婦さんは詫びていましたが、私は成功するまで試みてほしかった。なのに、彼女はベテランに代わってもらいました。

 以前にこんな話を聞いたことがあります。同志社大学の院生(? ひょっとすると聴講生)から聞いた話です。受け持った講座のゲストスピーカーに、現役の経営者として私が選んだ人の名前を見て、彼女は躊躇しました。こんな話があった、というのです。

 彼女の実家は酒屋です。今年の正月のことであったようです。ある客が三ガ日の間に酒を求めて訪ねてきて、ドンドンとガラス戸をたたいたようです。応対に出た彼女の父親は「休みの日なのに何事か」と大男に怒鳴ったのです。大男は「ゴメンナサイ」といって引き返しました。

 そして後日、その客はしょげ返って訪れ、詫びを入れたというのです。もちろん、両者は親密な関係になったそうですが、娘の彼女はその客に対してとても申し訳ないことをしたとの気持ちをもち続けていたのです。その大男とは、このたびのパーティの依頼者であるトッテンさんです。

 もちろん、私は妻がしたことを正当化しようと思っているのではありません。逆に、怒らせてしまったお客さんに怒鳴り込みに来て頂きたいのです。そうすれば親密な関係になれそうに思われてならないからです。その人にも、「何か誤解があったようだ」と考えるゆとりがない事情があったのかもしれないからです。誤解のまま怒り続けたり、しょげ返り続けたりすることは辛いことです。