卑劣な姿勢
 

 1つは、持参した写真が問題にされたことです。2つ目は、パスポートの残っている有効期間は無効になる、というのです。

 まず写真の問題。撮影日は1ヶ月以内だと応えると、今度は「影の部分が黄色がかっている」とか「画素数が不足」とか言い出したのです。バックの色は問題にしませんでした。「この写真で、私だと判別できませんか」と問いかけましたが、それに答えられるはずがありません。

 逆に、何らかの権限や権力を手にした人がやってはならない偏狭な姿勢になり始めたことのです。つまり、写真を撮り直して出直すか、併設経営している写真部で撮り直して提出するかのいずれかの選択を迫るばかりになったのです。うっかりすると、併設経営している写真部で撮り直す写真代の2000円足らずを惜しんでいる、と問題をすり替えられかねません。

 撮り直した写真を受け付けた人は別の人でした。その人によれば、撮り直した写真よりも持参した写真の方が私らしいと言った上で、「バックが白いから(はねられたの)ではありませんか」とか「子供はもっとかわいそうです」といいました。狭い部屋に入って撮影するので緊張し、「泣きじゃくったあとの顔になる子が多いのですから」と。

 この人のおかげで救われました。こうした人がいたおかげで、私は問題を大きくする気にはなれませんでした。ひょっとすれば、この人を窮地に立たせかねない、との不安が生じたからです。本来は、こうした問題に、権限や権力を有した人が主観を持ち込んではならない、いわんや自分を利っしてはならないということです。

 もし、先に受け付けた人が、歪んだ性格で権限や権力を振り回していただけなら、やがては組織として自浄作用を働かせることでしょう。あるいは逆に、歪んだ性格の人に権限や権力を与えたことを失点と考える風土の組織であれば、いずれは異なる問題として火を噴くに違いありません。小は内部告発などに、大は政権交代の要因などに結びつかせることでしょう。

 それはともかく、パスポートの有効期間は10年です。大人といえども、10年の間に、痩せたり、日に焼けたり、髪が薄くなったり、女性ならファウンデーションの色を変えたり、髪の型や色を変えたり、ということがあるに違いありません。子どもは1〜2年で急成長することもあります。本人識別にとってもっとも重要な要件は何か、と考え込まされました。

 次は有効期限の問題。「残りが3ヶ月以内だと入国を認めない国がありますから」との理由で、3ヶ月余の残余期間を切り捨てられました。つまり、再発行日から満10年の新規パスポートを発行し、パスポートナンバーも変わるというのです。驚きました。安全保障上でいえば、せめてパスポートナンバーは変えない方がよいのではないかと問いましたが、回答はなく、「うるさい人だなあ」との顔色が返ってきました。急いで主権在民の姿勢を撤回しました。

 そして勘ぐりをし始めました。有効期限を、乗り物の定期券のように継続させたらどうなるか、あるいは切り捨てたらどうなるか、いずれが安全保障上では有効なのか、と考えました。もし、写真の問題にせよ、有効期限の問題にせよ、安全保障を問題にして決めた方針なら、胸を張って明確な回答をするに違いない。例えば写真の問題であれば、寸法だけでなくバックは灰色の方が、併設写真部のブルーよりも有効と思われますから、そうした指定をすれば済むことです。

 ついに、詰まらぬ勘ぐりを始めました。パスポート取得経費は1人16,000円。日本人は毎年のべ1500万人ほどが海外に出る。その多くが有効期限10年のパスポートで、残余3ヶ月の有効期限を無効にしながら年平均2回同一人物が出国すると見るなどと計算すると、年間にざっと3億円ほどの余分の経費を国民に強いて、それを純益として手に入れている勘定です。それは高給の天下りの年収10人分程度に過ぎないでしょうが、愛国心を醸造するうえでは大問題だと思いました。

 それはともかく、私は40数年前からパスポートを継続的に取得してきましたが、これまでは問題にしていなかったことが、なぜこのたびは気になったのか、と不思議に思いました。これまでは「長いものには巻かれろ主義」であったが、それを返上したのか。民度を高めたのか。あるいは逆「お上に対する忠誠心に欠けた輩」に成り下がったのか、と心配になりました。