豊かさや幸せ
 

 これまでは他の人よりも「より高価なモノを持つ」とか「トロフィーを競いあって勝つ」などの豊かさや幸せを求めてきましたが、水や空気がきれいとか生物多様性に富むなど、未来世代とも共感できるそれらもあるのではないでしょうか。

 これまでは、限りなく相対的な前者の豊かさや幸せに憧れる美意識や価値観が支配する社会でした。それが次第に孤独になりかねない世の中にしていたのではないでしょうか。だから、勝ち組や負け組という言葉を作らせたり、自殺者を増やしたり、ひいては環境破壊や資源枯渇をすすめたりしてきたように私は見ています。

 要は、みんなが真似たらたちまちにして地球をパンクさせかねない美意識や価値観です。それらが支配する空間や時間から、なるべく遠ざかることが、穏やかな生き方を手に入れさせるように私には思われてなりません。

 つまり、未来世代とも共感できる「より絶対的な豊かさや幸せ」もあるわけですから、その方が大切だと思わせる美意識や価値観があってもよいはずです。この美意識や価値観に転換する時代の到来を私は願っています。

 かつて私はこうした考え方に目覚め、商社の新しい役割は後者の豊かさや幸せを世界に普遍させること、と夢見るようになりました。ところが、うまく説得できず、会社を辞めてしまいました。むしろ生きている間に、目で見たらわかるその小さなモデルを創る方が先決だ、大切だ、と思ったわけです。

 こうした私の夢や願いをよく知ってくれていた友人がこのたび久しぶりで訪ねてくれたわけです。前回は、一昨の秋でした。私が発病して入院する直前に、10数名の仲間と訪ねてくれています。その時の彼の一言は私にとって大きなご褒美でした。「君は信念を貫いたね」でした。「かっこいい」のではありませんか。

 これを「かっこいい」とこの男は思ってくれますが、それはこの庭が「お金があるからできたのではない」ことをよく知ってくれているからです。逆に、この庭づくりにとりかかったおかげでお金があるように見えるようになったことをよく知ってくれているからです。

 そうした美意識や価値観で見ると、乙佳さんの師匠に造ってもらえたステンレスの草抜き動具(前週の当週期で取り上げ)や、家具職人夫婦に造ってもらえたこの手紙も世界で唯一つの「かっこいい」代物に見えてならないように思われます。

 トッテンさんをはじめ、同志社大学のおかげで最近知りあえた中村さんも、きっと後者の美意識や価値観の持ち主だと思います。だから中村さんは、これまでの美意識や価値観が支配する世界に愛想をつかされた、のではないでしょうか。