廃屋を改装した人
 

 その玄関にいたったときに、奇妙なガラス障子に目がとまりました。背丈を越すこの冬の雪が、縁側のガラスを割ったようで、それをありあわせの材料で補修したわけです。1枚目の補修に手間取り、2枚目の補修は短時間で済む様式にかえた、とか。

 狭いながらも様々な道具を揃えた仕事場がありました。道具は人間の体の延長でしょう。素手ではかなえられない願いを自らの手でかなえようとした人が考え出すシロモノです。たとえば、立派な角を備えた牛を倒したくなって、槍に思いつき手にする、など。

 ここがいずれはアトリエになる、という散らかったままの部屋が残されていました。この人は、アトリエの造作よりも、道具を揃えて自由自在に使えるようにすることを優先したのでしょう。その間に、完成したときのアトリエの像が幾つもまぶたに結んでいたのではないでしょうか。

 土間に入ると、まずデーンと囲炉裏が作られた広間が目に入りました。同好の士を招いたりして歓談するのでしょう。その1人に加えてもらいたいな、と思ったものです。

 床の間をはじめ随所にあった装飾品は、ことごとくお手製でした。

 この人の手にかかると、踏み込み難いほどあれていた家屋が、日一日と投宿したくなる家屋へと生まれ変わってゆくわけです。かれは人生が、刻一刻と楽しい、と笑っていました。
 

奇妙なガラス障子

道具を揃えた仕事場

道具を揃えた仕事場

散らかったままの部屋

囲炉裏が作られた広間

装飾品

装飾品