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東日本大震災:福島第1原発事故 原発の問題点を聞く/上 /京都
毎日新聞 2011年4月3日 地方版

 東日本大震災で発生した東京電力福島第1原発の事故。放射性物質の流出や
拡散は多方面に巨額の経済的被害をもたらし、他の電力会社も含めて安全対策の大
幅な見直しを迫られている。事故前からエネルギーの費用計算で原発政策の問題点
を指摘し、昨秋に原子力委員会で識者として提言した大島堅一・立命館大国際関係
学部教授(経済学)に原発に関する問題点などを聞いた。【聞き手・太田裕之】

 ◇事故前から最も割高−−大島堅一・立命館大教授
 −−まず、原発費用の分析結果は?
  ◆原発では、(1)発電に直接要する費用(燃料費、減価償却費、保守費な
ど)の他に、(2)原発に特有の「バックエンド費用」(使用済み燃料再処理費、
放射性廃棄物処分費、廃炉費)(3)国からの資金投入(開発・立地のための財政
支出)(4)事故に伴う被害と被害補償費−−を考える必要がある。(1)(2)
は料金原価に算入されており、この合計を発電単価とする。電力9社が公表してい
る有価証券報告書総覧のデータ(1970〜2007年度の合計)を経済産業省の
料金算定規則に基づき電源別に推計すると、1キロワット時当たり、火力9・80
円▽原子力8・64円▽水力7・08円だった。ここで注意が必要なのは、原発は出
力調整が出来ないため、需要の少ない深夜電力で水をポンプで上げて貯水し、昼間
に発電する「揚水発電」をしている点だ。原発のコストは「原子力+揚水」で見な
ければいけない。水力のうち、揚水は51・87円、一般水力は3・88円。「原
子力+揚水」は10・13円となり、火力を上回り最高額となる。

 −−(3)の財政支出はどうなってるのか?
 国家財政からの資金投入は、一般会計と電源特会から行われている。電源別
に計上された財政資料は存在しないため、「国の予算」を基に可能な限り再集計し
た。1970〜2007年度の合計で見ると、95%が原子力に費やされていた。
火力の106倍、水力の27倍だ。そして、(1)(2)に(3)を加えた「総単
価」を電源別にみると、原子力10・68円▽火力9・90円▽水力7・26円。一
般水力3・98円、揚水53・14円で、「原子力+揚水」は12・23円に跳ね
上がる。原発は安価ではないどころか、国民にとっては最も割高であることが明ら
かになった。

 −−バックエンド費用に問題があると指摘されているが。
 原発の最大の課題は放射性廃棄物の処理・処分を含む発電後の放射性物質の
扱いだ。使用済み燃料の再処理を含む核燃料サイクル事業、放射性廃棄物の処理・
輸送・処分、原子炉の廃止措置など(2)の「バックエンド費用」は04年の政府
審議会報告書で総額18・8兆円とされた。前述の単価計算でも含んでいる。ここ
で問題なのは、劣化ウラン、減損ウランは高速増殖炉で利用できるとして廃棄物に
分類されていないことだ。だが、高速増殖炉の見通しが立たない現状では廃棄物と
して加わる恐れがある。また、使用済みのMOX燃料(ウランとプルトニウムを混
ぜた混合酸化物燃料)の再処理または処分の費用も含まれていない。さらに再処理
費(11兆円)に算入されたのは使用済み燃料の半分しか対応しない六ケ所再処理
工場だけで、単純に考えて全量では倍額になる。高速増殖炉サイクルに関する事業
も含まれていない。そして、これらの事業は世界でも大規模な実施例がない。高レ
ベル放射性廃棄物とTRU(長半減期低発熱放射性)廃棄物は処分地が未定だ。不
確実な再処理工場の稼働率も考慮すると、現在のバックエンド費用の見積もりは過
小評価ではないか。海外の再処理工場の実績稼働率は07年で仏56%、英4%。
政府が想定する100%は不可能で、実際には数倍に膨れ上がる恐れがある。

 −−こうした指摘に対し、反応はどうか。
 これらの調査・分析の結果は講演会などで報告し、昨年3月に東洋経済新報社
から出版した。昨年9月には原子力委員会が原子力政策大綱を見直すかどうかの検討
で識者として意見を述べた。その場でも疑問や反論があれば議論して正確にしたいと
要望したが、特に大きな反論はない。公表データに基づいているので、反論しようが
ないのではないか。

=(下)は10日掲載予定

■人物略歴
 ◇大島堅一教授
 1967年、福井県生まれ。92年一橋大社会学部卒、97年同大学大学院経
済学研究科博士課程単位取得。経済学博士。高崎経済大経済学部助教授、立命館大
国際関係学部准教授を経て08年より現職。専門は環境経済学、環境・エネルギー政
策論。近著に「再生可能エネルギーの政治経済学」(東洋経済新報社)がある。


東日本大震災:福島第1原発事故 原発の問題点を聞く/下 /京都
毎日新聞 2011年4月10日 地方版

 日本のエネルギー政策の柱として推進されてきた原発だが、東日本大震災に
よる東京電力福島第1原発の事故で根本的な見直しが迫られている。事故前から原
発のコストを検証し、国民にとって最も割高だと指摘してきた大島堅一・立命館大
国際関係学部教授(経済学)に聞いた。【聞き手・太田裕之】

 ◇推進路線、転換は不可避−−大島堅一・立命館大教授
 −−福島第1原発の事故をどう受け止めるか?
 まさに未曽有の事故だが、明らかに“原発震災”であり、懸念されていたこと
が現実のものになった。福島第1原発にとどまらず影響は大きい。これまでの私の
計算では対象外にしてきたが、東電には事故に伴う原発自体の被害と周囲への被害
補償費が生じる。全容は不明だが、少なくとも数兆円規模になるだろう。議論が先
行している農業被害や漁業被害は全体の一部で、観光産業や原発のため操業できな
い事業などにも及ぶ。住民の健康や資産への被害もある。健康被害はアスベスト
(石綿)と同様に長期的に見る必要がある。避難に伴う経済的損失も大きい。土地
の価格も下がるだろう。人が住めなくなれば、その地域の人々の全財産が対象とな
り、天文学的金額になる。想像を絶するとしか言いようがない。次に原発自体も廃
炉が必要で、その費用も膨大になるだろう。これまでも廃炉費用は積み立てられて
きたが、以前、見積もりが甘かったとして積立額が引き上げられている。事故によ
る汚染もあって膨れ上がるのは間違いない。事故を考慮すれば、原発は生み出す経
済的利益よりも損失の方が大きいのではないか。福島第1原発事故のようなことが
あれば、普通の企業なら倒産する。東電は、営業利益や内部留保を被害補償に充て
ていかなければならない。過去の巨大津波の経験から、危険性が国会でも指摘され
ていたにもかかわらず、東電は対策を怠ってきた。被害者には迅速な補償が必要だ
が、国が丸抱えで肩代わりしたらモラルハザードが起きる。

 −−東電以外への影響は?
 他の電力会社も当然、津波対策や耐震強化の見直しが必要になる。震度も従
来の想定でいいのか。福島第2原発も、女川(東北電力)も止まっており、きちん
と検証する必要がある。新潟県中越沖地震(07年7月)で被災した柏崎刈羽原発
もそうだったが、何年も要するだろう。今回の震災を基準にすれば全国の原発全て
が基準外になるのではないか。浜岡原発の1、2号機は新潟県中越沖地震の後、よ
り厳しい耐震性が求められて廃止を決めたが、そんな事態に及ぶ可能性がある。原
子力損害賠償保険の限度額(1200億円)も大幅に引き上げる必要があるだろ
う。また、今回の事故では使用済み核燃料の危険性も浮き彫りになった。前述のよ
うに廃棄物の処理コストは一応は計算されてきたが、過小評価であり、今回の震災
でさらに見直さないといけない。

 −−今後の原発の行方は?
 少なくとも東電は原子力なしでやらざるを得ない。福島第1原発は再起不能
だろうし、福島第2原発と柏崎刈羽の稼働も不透明だ。もはや原子力という選択肢
はなく、太陽光や風力など自然の再生可能エネルギーを増やすことになるだろう。
東電は今まで需要開拓に躍起だったが、事故後は需要抑制、節電に転じている。契
約上、産業界の需要調整は可能なので、計画停電は不要になると思う。ドイツは再
生可能エネルギーの電力に占める割合を10年間で約10%引き上げた。次の10
年間でさらに15%上げようとしており、2030年には35%くらいまでに達す
る。日本でも、10年で20%に上げることは可能だ。周りは海で日差しもドイツ
より強く、可能性は高い。20〜30%になれば基幹電源となる。原発も1基を新
設するのに10年かかる。再生可能エネルギーは今の原発に匹敵する基幹エネル
ギーに十分なりうる。




 −−他の電力会社はどうか?
 今まで電力会社は原発推進で一枚岩だったが、東電が原発を失い、路線を転
換する影響は大きい。東電以外は置かれた状況がまだ分かっていないかもしれない
が、東電に出来て、他社はなぜ出来ないのかとなる。大きな転換点だ。原発の安全
神話は崩壊した。新規立地は全国どこでも無理だろう。事故防止のコストが高くな
り過ぎて、電力会社にとっても割に合わなくなる。加えて事故処理と放射性廃棄物
の「負の遺産」がある。原発はもはや割に合わない産業に成り果てた。他の原発も
今後次々と廃炉となっていくから、20年、30年先を見るとなくなっていくしか
ない。国として「脱原発」に転じれば、原発向けの予算をほとんど再生可能エネル
ギーに使える。国の財政資金は原発費用として年間4000億円ぐらいある。さら
に、再処理費をやめれば、その分の11兆円も回せる。再処理のため税金のように
キロワット時当たり0・5円ほど電気料金に上乗せ徴収されている金額は年間30
00億円くらい。これらを使えば、再生可能エネルギーは市場でも十分に離陸でき


その他の情報:
http://www.greenaction-japan.org/internal/101101_oshima.pdf
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2010/siryo48/siryo1-1.pdf