老犬のオナラ
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ケンの後ろ足は、前足に引っ張られているようなありさまです。時々足がもつれてふらつき、たまには尻餅をつきます。もちろんまともにマーキングは出来ません。メス犬のように、しゃがんでします。当人は「おかしいな」とも思ってはいないようで、なに食わぬ顔で次のマーキング場所を目指し、前足の力だけで私を引っ張ります。 ケンは「老化現象か」と私たちが思ったのは、寂しげに夜鳴きするようになったときのことです。その時に、昼寝をしているときに大いびきをかくようになっていたことに気付かされました。そこで風除室で住まわせることにしたのです。 母が大腸がんを患い、術後に人工肛門に転移した時に特殊な匂いを発散させていましたが、ケンが同じ匂いを放っていることが私にも分かりました。ですからケンにも再手術を受けさせるか否かでずいぶん悩みました。母は「再手術も受ける」と本人が言ってくれましたから1も2もなく受けさせましたが、結果は痛い思いをさせただけに終わったようなことになっています。ケンの場合は手術を受けたいとは言ってくれませんし、受けさせたとしても、母のように、術後数カ月にわたって希望にあふれた日々を過ごせるとは思えません。「痛い思いだけさせかねない」とか、「そのお金は、他のことに活かすべきではないか」などと思案したわけです。また、かかりつけの獣医は、再手術をするなら「同時に去勢手術もしたほうがよい」とのことでしたから、その日の内に答えを出せませんでした。 翌朝、妻の希望で、両方の手術を受けさることに決めました。結果は大成功でした。そこで、元気を取り戻してから、私たちがNZ旅行に出かけることもあって、元のハウスにもどしてみたのです。なんと、まったく夜鳴きしなくなっていたのです。 ところがその後、何ヶ月かして、ケンが再び夜鳴きするようになりました。その時に耳が相当遠くなっていることに気付かされました。「こころもとないんだ」とか「ご近所迷惑ですから」と妻が言いますから、再び風除室で住まわせることにしたわけです。そこでわかったことは、大いびきだけでなく、プーとオナラをするようになっていたことです。 散歩を私が引き受けたときは、妻が金太とハッピーを個別に散歩させ終えるまで、つまり2倍の時間をかけてさせています。この間に、ケンは幾度となくプーとオナラをします。また、「少し疲れた」とばかりに尻を付けてしまうことがありますが、そうたときにケンと目があうことがありますが、ときどきケンの若かりし頃の思い出が頭をよぎります。 ケンは3度も不思議な迷い子になり、それぞれ異なる観光客に交番所に連れてゆかれ、3度ともに命拾いをしています。3人とも同じ願いを巡査に伝え、それが聞き入れられたかのごとくになっています。不思議な迷い子とは、同じところで観光客に見とがめられていることです。同じ願いとは、「飼い主が見つかるまで待ってやって」との一言です。 ケンは犬小屋の鎖につないでおくと、餌と散歩の時間以外は、終始寝そべってきました。それが、わが家で飼った犬の中で、長命の新記録をつくらせつつある理由かもしれません。そういえば、病弱でありながら長命であった父も、終始居眠りをしていました。考えこまされるところです。 |
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