生活空間
 

 ガイガーカウンターを初めて手にしました。短調で奇妙な機械音を発しながら残留放射線量を数えてゆきますが、その音がホットスポットではとても早くなり、不気味でした。

 この施設にたどり着き、一息入れたときに、まずこのブランコに目がとまりました。2本の大きなブナの木に、電柱のような丸太をわたしています。その丸太に6本のロープをたらしていますが、このロープは丸太をわたす前に結わえておいたのか、わたしてから結わえたのか、と思案しました。また、このブランコを作っている父の姿を、子どもたちはどのような心境で眺めていたのか。あるいは完成までに、「丸太を切り倒し始めてから、何日ぐらいかかったのだろうか」とも考えました。

 畑は「ヨイマチグサ」をはじめ、さまざまな野草で埋め尽くされていました。「3・11」までに、準備が終わった夏野菜もあったことでしょう。わが家の畑も、この時期に数カ月も放っておけば「こうなるんだ」と思いました。

 畑には、草をかきわけたら「大きなマクワウリ」などがなっているようです。今も農薬には汚染されていない作物ですが、もっと恐ろしいものに汚染されてしまったわけで、収穫できなくなってしまったわけです。

 農作物関連で最後に見たのは、シイタケやナメコをはじめさまざまなキノコを生み出すホタギでした。「たくさんシイタケが出ていたのに」と橋本ちあきさん。「ここのナメコは山ほど採れて、うまいんですよ」と橋本宙八さん。

 今は「書斎」と呼ばれている8畳の間ぐらいの建物は、最初に造られた建造物です。先ずここで住まい、産婆や病院の世話にならず、夫婦で、あるいはちあきさんが1人で子どもをもうけ、育だて始めたのでしょう。5人の子どもは肉を食べず、元気なだけでなく、ココロ優しく立派に育ち、今に至っています。

 今の居住棟は、幾部屋もある大きなものです。子どもが喜びそうな中2階や、さまざまな階段もあります。この棟で「近代医学に見放された患者」を受け入れ、健康回復に寄与する活動にとりかかり、その成果が口コミで来訪者を増やしていったわけです。

 最後に造られた棟は研修棟で、とても大きな木造2階建てです。部分的には4階建てのような構造です。渓谷を見下ろすベランダでは、ゆうに30人ぐらいは昼寝ができるのではないでしょうか。

 渓谷をせき止めた池にはイワナも棲んでおり、子どもたちが丸裸で泳いだり水遊びをしたりしたそうです。大きな山桜や、ヤマツツジの群生もありました。その盛期を説明するちあきさんの声は弾んでいました。目は輝いていました。

 きっと私がお訪ねしたいと言い出したものだから、草刈りなどをしてくださったのでしょう。ただでさえ暑いさなかに、放射能被曝を避ける衣服に包まれた作業は、とても過酷であったことでしょう。

 この橋は、子どもたちが小学校分校に通うために掛けたとか。太い電柱のような丸太を2本わたしたうえに、天板を張っていますが、夫婦の力だけでどのようにして太くて重そうな丸太のわたしたのだろうか、と考えました。川幅は8〜9mはありそうでしたし、深さは4〜5ほどありそうです。

 この敷地では、少し掘れば縄文土器が出るそうです。そのような置き方をしていたら危ない、と宙八さんに注意されたちあきさんは、置き直そうと思っていた矢先に地震という天災に襲われ、続いて人災に見まわれ、粉々に割れました。

 縄文人のあとは、人間に見放されたようで、弥生人の足跡は出ないそうです。ここに橋本夫妻は自給自足生活の可能性を見いだし、今日の生活空間を創出したわけです。実は、こうした生き方をすることが私の夢であった、といえなくもないのです。

 ほぼ完成させたその生活空間が、一瞬にして使用できなくなったわけです。その原因が、嘘で塗り固められていた人災が、今次第に明らかになりつつあるわけです。これから、まだまだ、隠されてきた事実が明らかになることでしょう。もちろん今も進められているインチキがあることでしょう。

 この家族は、第六感も働かせ、人災だと分かってから3時間後に、3台の車に分乗してこの生活空間を見捨てています。その間にオーストラリヤに住む長女とも情報交換をしたことでしょう。何が語られたのか、3時間の間にいかに決意し、取捨選別を決めたのか。この家族が車で50km走ったところで、水素爆発が生じています。

 これだけの手造り生活空間を見捨て、少し落ち着いてから様子を見に返ったが、そのときに無数のカメムシが死んでいたことが分かったとのこと。きっとカメムシは種として放射能にとても弱いのでしょう。

 

ガイガーカウンター

ホットスポットではとても早く鳴る

ブランコに目がとまりました

シイタケやナメコのホタギ

シイタケやナメコのホタギ

書斎

書斎外観

居住棟

中2階

さまざまな階段

研修棟

大きな木造2階建て

4階建てのような構造

渓谷を見下ろすベランダ

池にはイワナも棲んでおり

子どもたちが小学校分校に通うために掛けた橋

縄文土器

縄文土器

天災、人災に見まわれ粉々に割れました