昔を偲びました
 


 かつてわが家にはミシンが2台ありました。このたび出てきたミシンは国産の方でした。「シンガーミシンがあったのに」と過去を振り返りながら「そういえばあの時」と昔を振り返っています。両親は姉が嫁ぐときに「せめてミシンぐらいは舶来を」とシンガーの方を持たせたのです。60年も前のことでした。

 当時のわが家は、父が病弱であったこともあり、とても家計が苦しい時期でした。姉は嫁ぎ先でも子どもの医療費や度重なる転居で苦労しており、いつの間にかそのミシンを手放しています。時代の流れも、ミシンを必要としない方向に進んでいました。

 このたび出てきたミシンも、40年ほど前から使われておらず、7年ほど前に納戸が出来てからいわゆるオクラ入りしていたわけです。

 「これ、(人形)展示室に持ってゆきます」「(業者に)動くようにしてもらいます」と妻が語ったときに、「???」と私は思いました。その階下の人形工房には電動ミシンが数台備え付けてありますから「今さら、こんなボロミシンを」と思ったわけです。

 姉が嫁いだ60年前といえば、妻はまだもの心がついていません。姉がミシンを手放した頃は、きっと妻は「ミシンが欲しい」と願う年頃ではなかったでしょうか。私にとっては、長年にわたって「捨てればいいのに」と邪魔者扱いしてきた代物です。なぜなら、母が最も多くの時間を過ごした居間の廊下に.、そこは母の目線で言えば庭の景色を遮断する位置でしたが、に据え置かれていたからです。

 何故かこのたび、私はホッとする気分にされています。同時に、「姉に何か好物でも送るか」と思っています。