1時間におよんだ治療
 


 先ず治療に要する道具や薬剤を準備し、「やおら」と腰を落ち着けて取り組みました。ビロードのような苔状の病巣をめくり始めると、その下からもう1層別の病巣が現れました。ひとカケラも残すまい、と丁寧にめくり取り、そのあとを金属ブラシで磨き上げ、石膏イオウ合剤を塗布したわけです。

 この道具を揃えるときに、これまで使っていたブラシではなく、過日の母屋の整理から出てきた母の道具の1つを、何の気なしに選んでいました。それが幸いしたのです。ひょっとしたら、何気なしにではなく、落ち葉の中での治療ですから、目立ちやすい色を選んでいたのかも知れません。母は、「珍しい!」と思った道具を見かけると、つい手を出してしまう性質の人でしたが、この道具は重宝しました。

 2本の木が絡まって育っていましたから、その谷間に巣食った病巣を取り去り、ブラシで磨き上げるのに苦労したのです。その過程で、このブラシの持ち手に違和感を覚え、発見したのがこの柄に収納されていたナイフです。刃先がノコギリ状になっていますから、それだけ余計に重宝しました。使用後、この道具の収納場所を特定しました。

 直径10cm余りの幹でしたし、病巣は地表から10数cmに過ぎませんでしたが、ビロード状の布のような病巣をはがしてみると、こんなにたくさんありました。新聞にくるんで、薪風呂の焚き口の放りこみ、燃料として活かす消極処分にまわしました。