ケンケンをせずに
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ケンは、これまでに飼った11頭の犬の中で唯一、爪切りを必要とします。それは、餌を食べるときと散歩の他は、すべてといっていいほど寝転んで過ごしてしまうからです。ケンをのぞく10頭は小屋につながれている時も、様式はさまざまですが,常に動き回ろうとしていましたし、現存のハッピー3世と金太はしています。ですから爪はすり切れてしまい、切り取る必要性など生じようがありません。 「ケンには困ったものだ」と思わせられ始めた頃に、つまり、ケンの後ろ脚に加齢に伴う衰弱が認められ始めた頃に、私は東トルコ旅行の機会に恵まれました。そこで私は「ワタシ」と「ワタシの足」について一大発起させられています。 トルコで初めて訪れた温泉は、床と壁面の5面がコンクリート貼りで、濡れてツルツルでした。その四角い部屋の中央部に四角い湯船があり、衣服の着脱はその部屋の端っこでおこなうことになっていました。トルコでは水着姿で温泉に浸かりますが、私は片足立ちで衣服の着替えをしづらくなっていたのです。いつの間にか靴や靴下の着脱時に、椅子にかけたり片手を壁面に添えたりしていたわけです。 そこで帰国後、直ちに改善に取り組みました。まず片足立ちでの着替えに挑戦したのです。その都度、ケンケンをはじめてしまう始末です。妻には「オットがオットットね」と冷やかされました。幾度かヒヤリとさせられたこともありました。脱衣所でケンケンを始めてしまい、ガラス戸に頭から突撃しかけたりしたわけです。 やがてケンケンの原因が分かりました。それは膝を高くまで上げられなくなっていたことです。それが階段での躓きの原因でもある、と分かりました。そこで、靴や靴下の着脱時などに、ことさら膝を高く上げるようにしたわけです。 その頃のケンは、逆にズボラがこうじ始めていました。妻が小屋の傍に行っても寝たきりです。やむなく私は、妻の散歩とは別に、私も連れ出すようにしました。もちろんそれは、私の膝を高く上げる訓練の時間にできる、と考えたわけです。ところが、ケンは途中でしゃがみ込んだり、帰ってから餌の時間まで小屋から出てこなくなったりする始末。要は、犬の散歩は好奇心で動きまわっているようなもので、処置なしでした。 今年になって、ケンの後ろ脚は、とりわけ右の後ろ脚は不具合になり、前足で引きずっているようなありさまです。にもかかわらず食欲はむしろ旺盛になっています。それは耳が遠くなり、健忘症が進んだせいではないでしょうか。腹が空くとやたら大声で吠えますから、妻が一度の量を減らしたとはいえ幾度も餌をあたえるようになったからです。もちろん妻は根気よく、風除室と元の住処との間を雨が降っていない限り移動させています。その距離は相当あり、階段も10段ばかりありますが、効果なし。 妻の願いは、わが家で飼った11頭の中では1番の高齢(2度の手術に耐えて18年目に入りそう。今は亡き8頭の多くは16年で失っており、ハッピー3世と金太はまだ11年目)ですから、1日でも長生きっせたいのでしょう。しかし、私の見方は少し異なります。 急に雨が降り出したりすると、本来の住処から私が風除室まで移動させますが、時間がかかること。足を引きずりながら、あっちこっちと嗅ぎまわって、好奇心に連れれて右往左往するからです。否が応でも私にとっては反面教師です。なにせわが家では無類の長生きですから、何を持って幸せと考えるのか。健康とは何か。と考え込まされます。 妻は私たち夫婦の食材費を削ったり、「私は医療費を使っていません」との言い訳けをしたりしてまでケンの手術費は惜しもうとはせず、私も「出来るだけのことはしてやれ」と言ってしまっています。しかも、わが家では、いわゆる捨て犬センターで子犬をもらうのが通常ですから、それだけ余計に考えこまされます。 この点で言っても、良い時に半断食に、つまり「正食」講座に参加したものだと思います。今は年末年始の過食になりがちな時期にありますが、まだ65kg、つまりかつての5kg近くを減量した状態を保てています。そして、入浴時に、無謀にもズボン、パッチ、そして靴下を一緒に脱ごうとしてしまいます。そのときはケンケンを始めかねませんが、そのほかではオットットがほとんどなくなっています。 |
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本来の住処 |
風除室 |