わが意を得たり
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この本の中で、有田秀穂医師は「『心の場所』は、脳の中に“二ケ所”ある」と指摘もしています。つまり、ヒトが感受できる「快」や「喜び」は2つに大別でき、それぞれヒトの脳の中にある異なる部分で感受している、と指摘しています。 2つに大別できる「快」や「喜び」の一方は、ヒトだけでなく、あらゆる動物が感受している「快」や「喜び」と同じですが、他方は、ヒト以外の動物は感受していない「快」や「喜び」です。なぜなら、ヒト以外の動物はそれらを感受する部分を発達させた脳を持ち合わせておらず、感受しようがないわけです。つまり、ヒトとは「人間たるゆえん」とも言える「快」や「喜び」を感受できる唯一の動物である、との指摘です。 この点は、私の直感を補強してもらえたような所があり、「わが意を得たり」の心境にされました。手前味噌ですが、1988年の処女作『ビブギオールカラー』で訴えたかった1つの柱がここにあったのです。私の場合は、ファッション動向の移ろいから推測し、おしゃれ心を喚起する源泉は脳の中に2ヶ所ある、と結論づけています。もちろんそれは仮設ですが、ヒトの脳については相当の勉強をしています。 有田医師は感受の面から結論づけられましたが、私の場合はおしゃれ心の発信面から推論しています。1つの源は、すべての動物と共有している脳の部分、つまり本能を司る部分ですが、他方は人間のみが発達させた前頭葉である、との仮説でした。 それは、なんとしても日本の凋落を避けたいとの願いが記させたことで、そのキッカケづくりをファッション業界に期待したからです。残念ながら、その夢はかなえられず、わが国のファッション業界は凋落の道を歩んでいるようですし、日本全体が沈滞傾向にあります。もちろん、後述しますが、ノーベル賞審査チームもこれまでは右往左往しており、ややもすれば人間たるゆえんの方向には向いていなかったようです。 その方向とは、先進工業国の所業を高く評価する方向です。つまり、すべての動物が共有する脳の部分を発信源とする開発に狂奔し、いわばグレーキを見失ったような競争に「快」や「喜び」を見出しがちな方向です。その弊害に、たとえば環境破壊問題、資源枯渇問題、あるいは南北問題などに結びつけていたわけです。 ヒトはもっと幸せなになれるはずです。ヒトたるゆえんであるより大きな「快」や「喜び」を得ることができる存在です。そうすれば、おのずと環境問題や南北問題などの弊害は解消されるに違いありません。その兆しを、60年代に社会を揺るがせた欧米の若人の動きに見出し、居ても立っても入られなくなり、脱サラしてペンを取りました。 有田医師は、先進工業国の弊害としてストレスにメスを入れ、ストレス解手法を編み出し、一書にまとめられたわけです。この著書で私は、ストレスも「生活習慣病」であったのだと理解できました。つまり、昨今では多くの人がノイローゼになるほどのストレスを貯めていますが、それは「遊んでいた」つもりで「遊ばれていた」からだ、と断言してよさそうだ、と私は読み取りました。 余談ですが、ノーベル賞経済学者も、「快」や「喜び」の見据え方を峻別し、その面から精査すれば、2大別できそうです。一方はリーマンショックに結びつけたカラクリ発案者が代表です。他方は、1998年度のアマルティア・セン教授ではないでしょうか。過日目に止まったセン教授に関する小さな記事から、そのように読み取りました。 原発や化石資源をエネルギーとする社会から脱却し、太陽の恵みでまかなう社会に転換したほうが世界経済の成長につながるとの標榜に共感を覚えました。 要は、ノーベル賞選定委員会は、この「快」や「喜び」の見据え方を見定めて峻別しておらず、ややもすればリーマンショックに結びつけかねない意図の方に傾いている、と見て良いのではないでしょうか。たとえば、DDTの発明者には贈ったけれど、その弊害を指摘したレイチェル・カーソンには贈れずじまいになっています。 ちなみに、この『脳からストレスを消す技術』は拙著の愛読者から贈ってもらったもので、得も言えぬ喜びを与えられています。 |
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