「分かった」
 

 「旭山動物園」は北海道の観光名所となって久しく、大勢の人が引きも切らずに訪れていますが、他にこの魅力を超える動物園が現れていない理由が半ば分かったような気にされました。それは「拓真館」での前田真三の遺作に見出した魅力と共通点がありました。その本質は、共に属人的な魅力、と言って良いでしょう。

 前田真三の遺作は、被写体・北海道の大地は誰にでも開放されており、同じ機材を手に入れ、その気にさえなれば誰にでも切り取れそうです。しかし、そう簡単には真似ができない。それは優れた芸術全般に言えることで、美意識や価値観など思想や哲学など卓抜した個人の能力が関わる問題であるからでしょう。ところが、「旭山動物園」の魅力は、属人的は属人的でも、個人の能力の問題ではなさそうなだけに、余計に心を惹かれました。

 その魅力は、園のスケールとか、パンダなど高価で珍しい動物とか、豊富な飼育種や飼育数とか、いわんやとても高くつく設備投資などといった面で優っているからではありません。むしろそれらの面で言えば、中クラス以下の園並みではないでしょうか。

 この園の魅力は、もちろん様々な角度から動物を眺める観察視点の工夫などにも見られますが、それよりも、飼育係や食堂係はもとより観客を迎える関係者一同の揃った足並み、その心意気と努力の積算効果、あるいは飼育している動物と観客にたいする「思いやり」など、関係者の心地良い協調や調和に起因している、と言って良いのではないでしょうか。

 たとえば狼の飼育舎。狭い階段を1列に並んで登り、天井に開いた穴から飼育舎のフロアーに出ますが、その階段の登り口で係員から、「狼の姿を見届けられないかも」といった注意をうながされました。案の定、躍起になって探しても、飼育舎に生えた木や草の影になって、老眼の目には見届けられない。あきらめて、飼育フロアーを斜め上から眺めるところまで階段をさらに登ると、草陰で寝そべっている狼が目に飛び込んできた。なぜか子どもたちまでが、狼の昼寝の邪魔をするのを控えてか、大声を挙げなかった。

 1つ不満があったとすれば、クリオネの飼育水槽。クリオネとは「こんなに小さい(5mm)ものか」と驚かされたこと。「どこにいるのか」とその姿を捉えようと躍起になって時間を取られ(ひょっとすれば説明文があったのかも知れませんが見逃しており)、クリオネとは5mm程度のいきもの、と思い込まされました。しかし、現実は、翌日の「オホーツク流氷館」で知りました。その姿だけでなく、生態の一部である捕食場面を見て確認し、誤解を解いています。「旭山動物園」に、もう一度行きたい。この現実を教える小さな手描きのパネルがあったような気にされてきたからです。
 


拓真館

中クラス以下の園並み

動物を眺める観察視点の工夫

動物を眺める観察視点の工夫


動物を眺める観察視点の工夫

心意気と努力の積算効果


心意気と努力の積算効果


狼の飼育舎


飼育舎に生えた木や草の影になって

「オホーツク流氷館」

クリオネ