床ずれを心配して
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犬の鳴き声でわかったようです。それは、妻は過去に一度失敗しているからではないでしょうか。四国での小さな個展の追い込み中のことでした。ケンが小便で濡らしたマットの上で寝そべっているとは気づかず、放置しておいたところ、やがて毛が抜け落ちてしまったのです。いわゆる床ずれです。その時点で私はバトンを引き継ぎ、妻は四国へ、私は言われたとおりにケントと付き合っています。 お陰さまで、バトンを無事に妻に返し、後日獣医の奥さんから、褒められました。ケンの床ずれを悪化せず、つまり硬くなり始めていた肌に傷をつけさせず、黒くなった肌をカサブタのようにさせていたからです。やがてカサブタが剥がれ、期待通りに毛が再びふさふさと生え揃いました。その後、妻はその毛がふさふさの状態を維持させています。 そのおかげか、せいか、今週はケンがらみの話が多くなりました。それはまず日曜日のプロローグから始まっています。合宿場から帰った日の午後のことです。お迎えした来客が、なぜか話題を飼いイヌにまで広げました。「餌付けしたイヌを残し、飼い主が先に死ぬのは可哀想」との意見です。この一言も、妻の火曜日の行動を誘ったのかも知れません。 あるいは、その前の、合宿場から車で送り届けてもらった後藤さんが関係していたのかも知れません。茶飲み話で、後藤さんは大型犬に噛まれた時の思い出を語りました。すんでのところで「助かった」と言うのです。なぜか、噛まれた瞬間に「お座り」と叫んでいたとか。そのイヌは反射的に座り、その後、後藤さんの支配下に入ってしまったのです。 それはともかく、ケンは18年目に入っており、ハッピーと金太は共にケンより5年あとから住人になっています。つまり、あと数年は、若い2匹とは付き合えそうです。とすると、妻は70前で、私は80前です。 その日の夕刻、2人で草刈りに精を出しましたが、ケンが愛用した小屋のそばで草を刈っていた妻と、ケンを話題にしています。わが家のイヌを扶養する能力を語り合ったわけです。私は、もう1匹飼えそうだ、と計算しました。妻は、現在の3匹に「長生きしてもらわなければ」と考えたようです。それは、わが家ではイヌの躾に熱心ではないからです。 ケンのように力が強いイヌや、ハッピーのように繋がれていることを忘れて走りだすようなイヌは、妻は「到底、歳をとってからでは飼えない」、引きずり倒されかねない、と考えたようです。もちろん、今のケンのように、半ばぶら下げて散歩させなければならない事態に至れば、それこそ世話などできそうにありません。ですから、まずケンを無事に見送り、残る2匹にも元気で長生きさせ、見送ってやりたい、と考えたのでしょう。 もちろん、こちらが面倒を見てもらえるようにきちんと躾をするスタイルがることも承知しています。しかし、なぜか妻だけでなく、私もその気にはなれないのです。後藤さんならいいのですが、ドロボウにまで「お座り」といわれ、反射的に座ってしまい、その支配下に入ってしまうようなイヌであってほしくないのです。 |