「ケンさま」
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ズボラなケンは、ついに、側に置いてあるボールの水で喉を潤すことさえできなくなりました。ついこの間までは、前足で上体を立て、下半身を引きずりながらボールににじり寄って行き、水を飲んでいましたが、その力さえ失ったのです。 要は、床ずれを恐れる妻と、ケンのズボラな性質が生じさせた悪循環の結果です。ケンは、食欲は旺盛で胃腸が極めて丈夫ですから、しっかりした排便をします。妻は、寝転んだままケンに小便をさせ、床ずれを生じさせかねないことを恐れています。小便で湿ったカラダを床に密着させ、放っておくと、その部分が床ずれになりよいようです。そこで、排便のためにしばしばケンを連れだします。ケンは散歩が大好きですから、それに味をしめて、散歩がしたくなると大声で吠えて、妻を呼ぶゆになったのです。 散歩が終わるたびに、妻はボールをケンの側に置いてやっていましたが、ケンは寝転んだまま首だけ立てて水を飲んでいました。ついに、上体を立てて下半身を引きずる力さえ失ってしまったわけです。そして、吠えるたびに、また「ケン様のお呼び」と妻につぶやかせるように鳴ったのです。 |
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