日本のアパレル業界の沈滞
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紅白歌合戦はほとんど見ませんでした。とりわけ出場者の服装が見づらかったからです。このままでは次第に衰退することでしょう。 それは、日本のアパレル業界にも責任の一端があると思います。日本のアパレル業界が求めるデザイナー像が時代遅れだから、デザイナーなどを育成する機関が時代の波を捉えきれておらず、悪しき方向に突き進んでいるのでしょう。1つは、日本のアパレル業界の衰退であり、2つは、舞台などでの「こけおどしのような服飾」の蔓延でしょう。「たんす在庫」と「バーゲンハンター」という言葉を思いつき、造語として使い始めた頃の危惧の念が、次第に現実化しているのが残念でなりません。 ですから私は、平成24年度の地球環境基金・助成事業の「リクチュール塾運営委員会」の委員や講師に喜んでならせてもらいました。そして、日本のアパレルの多くは完成品ではなく「半製品」であることを明らかにできるのではないか、と期待しました。20人の塾生募集に対して30人以上の応募があり、うまく滑り出しました。 問題はこれからです。多くの環境対策と同様に、「リクチュール塾」は悪しき道に走らないようにしなければなりません。悪しき道とは、かつての「牛乳パックを手作りハガキにする運動」のような方向です。「問題をより複雑にして先送りする方向」です。当時、私は心配して「この手作りハガキは、この後どうなるのか」と質問攻めにしたものです。 わが国では、毎年90万トンもの衣料品が不要品にされ、その2割程度しかリサイクルやリユースに回されておらず、多くがゴミとして処分されています。加えて、衣服を買ったものの、袖も通さずに「タンスの肥やし」にしている例が多々見かけられます。国として見れば、膨大な「たんす在庫」があるはずです。 そこで私は、次のようなメールをある人に送っており、「リクチュール塾」の望ましき方向をも咲きし始めています。 「Unti Aging」という言葉があります。また、英語では「あなたは赤がお似合いです」という意味で、「Red is your color」と表現することがあります。つまり、年齢や流行などに左右されず、それぞれの人の、まるで「膚の延長」のような衣服がありえて当然、とでも言った意識がこれらの言葉に込められているのではないでしょうか。 他方、わが国では、「買ったけど、袖を通していない」といった現象を多々生じさせています。つまり冷静になってから見直し、本来の自分に戻ってから買ったことを反省するケースの多発です。いわば欲望に振り回されて衝動買いした反省です。 このような無駄や失礼なことがあっていいはずがないのに、まかり通らせている。その意識が、日本のアパレル企業を「Refund保証」を、つまり「気が変わったという理由であれ」、いつ返品しても返金にも応じる保証を、できない体質にさせているのでしょう。 逆の言い方をすれば、たとえば、1万円の衣服を買ってくれた人に、売ったアパレル企業が、「1万円返せば、その衣服を返すこと」との条件をつけたら、「ハイ、そうですか」と応じるでしょうか。「所有権は私に移る」という人が多いのではないでしょうか。つまり「Refund保証」には、買ってくれた人が所有権を主張するような衣服を追求し、返品したくなるような衣服を作らなくて済むようにしたい、との意識が働いているわけです。この意識が働いていないがゆえに、日本のアパレル業界はおしなべて業績を悪化させており、その苦しさがますます衝動買いをそそる方向に走らせているおそれがあります。そうした、買った人に所有権を主張してもらえない製品を、私は「半製品」と呼んでいます。 「Re Couture」は、「半製品」を「完成品」にする仕上げ加工でなければいけない、と思います。「タンス在庫」を、あるいは「バーゲンハンター」となって買い求めた「半製品」を、その人の「膚の延長」のような衣服に仕立て直し、ワードローブの定住者にしてもらえるようにする役目を果たすことが求められています。 |