躊躇の選択
 木曜日の午後、彬さんが庭でスズメの子を拾ってきました。巣から落とされたのであれば、母に見放されたわけで、まず助かる見込みがありません。でも「何とか助けたいね」と私は受け入れることにして、妻の同意も取り付けました。

 天井裏の収納庫から、2つの鳥籠を妻が取り出してきました。1つは、カナリヤを死なせた篭です。もう一方は竹の篭で、カナリヤを買い求めたときについてきた篭であったのかもしれません。この竹製の篭で保護することにしました。

 まず、玄米ご飯を、次いで玄米を与えました。玄米では大粒すぎるのではないか、と言って妻が稗も含んだ雑五穀の袋を取り出してきました。雑五穀をついばみ始めたのを確認して庭仕事に移ると、スズメがしきりに鳴いていることに気付かされました。母スズメが子を探しているのではないかと心配になり、母スズメの元に戻すべきか否か、と躊躇しています。

 「同じ死ぬなら、母と再会してから死なせたいね」と彬さんに相談しましたが、できれば人の手で元気にしてから返したい、とも思いました。親スズメの鳴き声は盛んでしたが、篭の子スズメはいっこうに鳴きません。そうこうしているうちに夕刻を迎えました。

 五穀をそれ相当についばんだ子スズメの寝る時間になりました。多くの場合は、夜の冷え込みで死なせてしまいかねません。そこで、ケンに使わせていた電気アンカを妻に取り出させて、それで保温して休ませることにしました。

 残念ながら、翌朝には死んでいました。その遺体を、ケンが眠っている側に埋めて、石を載せ解くように、と彬さんに指示しました。そして、未だに、母の下に返しておくべきではなかったか、と悔やんでいます。彬さんは、私が躊躇していた時に、ヘビかネコなど何かにキット狙われて食べられてしまうに違いない、と考えていたようです。

 週末の今も、スズメが庭にたくさん来ており、盛んに鳴いています。それは、稲穂がついたわら束を、夏野菜の支柱などに、彬さんにぶら下げさせてあるからでしょう。