我ごとのように喜んでいます
 今治のタオル産地は元気です。高額商品であるにもかかわらず買い求められる不断の工夫と努力が重ねる企業が台頭したからです。いまやアメリカにまでそのブランドは知えわたっています。

 かつて私は、この産地勉強会の講師にしてもらい、拙著『ブランドを創る』をテキストにして応じさせてもらっています。タオル業界は「お先真っ暗」の時代でした。

 ブランドを育てるということは、関係者全員が心を1つにしなければならない課題です。少数であれ、目先の利益に目がくらみ「信用の積み増し」をおろそかにする人が現れたり、その利益を高く評価する人が現れたりすれば、それまで積み重ねて努力はたちまちにして瓦解しかねません。

 欧米企業に見習うべき第一は、この点です。逃げ場のない商いの仕方をしています。つまり、巨大な商いをたった1つのブランドとか、あるいは少数のブランドで実行している点です。

 企業単独でも心を1つにしてブランドを育てるのは大変なのに、業界が心を1つにして育てることは至難の業です。でもそれ以外に「お先真っ暗」の状態を打開する方策はなかったのです。もしこれが実現出来たら、他の産地は消えて行っても、今治は残ります、と語りかけたことを思い出します。要は、言うのは簡単ですが、実行するのは大変難しいことです。それを、王道としてヌケヌケと語らせてもらったのです。

 もちろん、『ブランドを創る』の中では、その望ましきやり方を具体的に述べています。何が失敗の始まりか、も述べています。それを、実行に移す企業が現れ、業界あげてエールを送り、支援体制を組み立てるという至難の業を現実化されたようです。まさに、頭が下がる思いです。

 余談ですが、過日児島や福島のジーンズ産地を訪れた折に、今逆の、いやな、そして不安になる噂を具体的に耳にしました。大手アパレル企業が、他社の売れ筋商品を持参して、これと同じものを造ってくれ、と依頼した話です。

 私はアパレル時代に、あるブランドの商品をそっくり真似続けて急成長する企業に泣かされていますが、その企業は大きくなりながらあえなく消え去っています。