うるわしき夏の一日

 

 妻は朝のまどろみが大好きで、「早く起きなくては」と思いながら床の中で、1日の段取りを考えるそうです。その段取りのケリをどこでつけるのかは分かりませんが、やがて「もう起きなくては」と思うのでしょう。2013年7月21日・参院選投票日の朝のことです。

 二度寝から目覚めた妻は、なぜかつぶれた笊を、まず取り出しました。この行為は、この日一日の朝のまどろみ時のプログラムに入っていたのかどうか分かりませんし、例のごとく、朝食の準備の途中でこの笊が目に留まっただけのことかもしれません。

 ということは、妻はよくとっさの思い付きで不思議な行動に出ることがよくあるからです。あるいはこの日は、ウジウジしたような私の心境を察して思いついた行為かもしれません。それはともかく、もし私が肋骨を傷めていなければ、快晴でしたかあら、とっくの昔に朝飯前のひと仕事のために庭に飛び出しており、その場には居なかったことでしょう。

 この日は、終日養生の日にしました。おかげで、妻の多忙な1日をジックリと観察することができたのです。ちょうどアイトワの夏休みが明けた日に当たっており、10時から門扉を開けるように、妻はあわただしくし動き回らなければなりません。喫茶店や人形展示室の掃除は前日に済ませていましたが、庭の開放する部分の落ち葉掃除は、その日の朝の仕事です。私が(多忙な日は庭掃除を受け持ちますが)たおれたので、段取りが変わったに違いありません。

 妻は気ぜわしげに、縁側につぶれた笊を置いたあと、母屋からみそ壺を取り出して来ました。2年ほど前に仕込んだようで、願ったように熟成していたそうです。それを小出しする容器に移した後、玄関に向かっています。野菜を収穫に畑に出るためです。私は「ヨイショッ」とばかりに腰を上げ、妻について出ることにしました。せめて金魚の餌やりぐらいは、と考えたのです。妻は、ハッピーの頭をなでてやる朝の挨拶をしていました。そのうえで、意外な小路を通って菜園に向かいました。それは私が石を組み直して階段をつくり直した小路です。

 野菜をたっぷり収穫してきました。今年は、トマトがたくさん採れています。妻のアイデアでサルやカラスが手を出しにくくしたおかげです。大きいのは420grから小さいのはチェリートマトまで、色も赤だけでなく、黄色いトマトも採れています。いずれも姿が不揃いな野菜ですが、恐らく喫茶店の一部のお客さんにも用いるのでしょう。

 再開店の日を待ち構えていたかのように、手土産等を持参して訪ねて来てくださる常連客や、この日から始まった人形教室の生徒さんなどアイトワのサポーターには、菜園で採れた野菜で間に合わさせてもらうことがあります。一般のお客さんには、店頭で買い求めた姿や色が整った野菜を用いています。

 妻が仕切る喫茶店は、どこかが少しずつ変わっています。手土産持参で訪ねてくださる常連客が多いのも変わっているようですし、店を守るメンバーが開店来27年もたつのに代わっておらず、全員が老眼鏡を必要とする年頃になっている点も変わっている、と思います。第一、その間に、メニューが一つも変わっていないのです。

 この日から(喫茶店の一角を飾る)小旗を新調するつもりであったようですが、中途半端に終わっていました。手前の小旗は両面柄にすべきなのに、この度も取り付けてみるまで(何回も新調してきたのに、誰も)気付かなかったのです。

 もちろん初日は忙しくて(丁寧に柄を手縫いしますから)手が付けられなかったのは分かりますが、結局、週末時点でも残る一枚は未完成です。

 それはともかく、週初めに妻が取り出したつぶれた笊のおかげかもしれません。フト、個の補修作業に手を付けたおかげで、気力がわいてきて、アイトワ塾、出張、そして学生を迎えたと庭仕事まで、なんとかこなせたように思います。そのきっかけとなった一日でした。
 


願ったように熟成していた

階段をつくり直した小路

野菜をたっぷり収穫してきました

妻のアイデアでサルやカラスが手を出しにくくした
手前の小旗は両面柄にすべきなのに、この度も取り付けてみるまで(何回も新調してきたのに、誰も)気付かなかったのです