模範的な朝飯前
 

 

 もし80歳まで生きておれたら、夏場の「朝飯前のひと仕事」は、まだ薄暗いころから庭に出ようと思っています。そして、昼寝を楽しみ、早寝するのです。このたびはその予行演習のような一面もありました。加えて、彬さんへの教育にも力を注ぎました。

 彼の次回里帰りはいつになるのか分からないからです。このお盆が過ぎると、茨城県北部にある故郷に引き上げることにしています。それもやむなし、と私は観ました。

 彬さんは未だに、将来に対する確たる方針や方向を見定めていません。有機無農薬農業と、そうした産物を活かした調理に興味を抱いています。にもかかわらず、「だから、こうして生きて行く」、とか「生きて行きたい」という確かな想いが固まっていません。つまり、覚悟が決まっていません。ですから、自分のモノサシと信念で生きる爽快な気分を追い求めようとはいていません。いわんやその醍醐味に目覚めていません。ですから、私以上に詰めが甘いし、安易さに流れかねない恐れがあり、自己を甘やかせかねない一面があるわけです。

 そこで、未来をおもんばかった真の有機無農薬農業に対するイメージや、有機無農薬農業方式で自己完結能力を高め、独力で生きて行こうとする覚悟や、その覚悟と現実のあいだで繰り返す葛藤のようなものの一端に、この3日の間でも触れてもらいたい、と思ったのです。

 折よく、この庭で50年来初めて見るキノコ(?)が2つも出ていました。要は、自然は2度と同じことを繰り返さない、2つと同じものを生み出さない、ということを肝に銘じさせたく思っていましたが、その好例に恵まれたわけです。

 有機無農薬農業は、人間の知恵とこの自然の摂理との葛藤、といってよさそうな一面がありますが、この点に気づいてもらいたかった。なにもこれは難しいことではありません。わが国でも半世紀以前の農民はこの葛藤の日々を過ごしていたわけです。

 昨今の農業問題は、工業化を信奉したことです。机の上や閉鎖空間で考えたり実験したりして編み出した効率や生産性などを信奉し、その弱点を補強するために、農薬や化学肥料などの面で屋上屋を重ねるようなことをしてきたことです。それは、農業者の精神まで、矛盾という刃で破壊してきたようだ、と私は睨んでいます。

 もちろん、農薬や化学肥料を、いわんや科学を、私は否定しているわけではありません。むしろ尊重しています。要は過信せず、いわんや依存などせず、その成果をいかに活かすかが農業者に求められている知恵ではないか、と見ています。比喩を用いれば、これまでの農業の工業化は、つまり農薬、化学肥料、あるいは耕作機械などの多用は、贔屓目に見れば過信、下品を覚悟で言えば「キキガイに刃物」であった、と思われます。余談ですが、その延長線上に原水爆や原発が位置するのではないでしょうか。くり返しますが、私は科学を尊重していますし、科学者を尊敬しています。それだけに、悪用を見逃している科学者に失望するわけです。

 彬さんにその葛藤を目の当たりにしてもらいたくて、私流の農薬の活かし方を見せました。それは、彬さんに過日見せた手作り道具の活かし方です。屎尿タンクにわく蚊の退治法です。妻は気持ち悪がって目をそらしかねませんから、見せて来なかったことです。

 わが家の屎尿タンク(水洗便所)は、蚊にとっては最も魅力的(栄養豊富で添加物や農薬などの含有量が少なく、清潔)なボウフラの生育場と見えるのでしょう。タンクのふたを開けると、ものすごい数の蚊が飛び出してきます。その一網打尽策を実施したわけです。

 天候や時間的なゆとりに恵まれたときは、農薬を用いずに時間をかけて(干からびさせるなどして)殺します。そうでないときは農薬(殺虫剤)を用います。このたびは農薬を用いましたが、網のくびれに残っていた分で1000匹を数えました。

 過日封を切った腐葉土小屋の、腐葉土の本格的使用にも挑ませました。腐葉土小屋の堆肥化の様子を飲み込ませたておきたくて、前もってトマトとキュウリの畝を整理(最後の収穫にはじまり、支柱の解体と収納で終わる)させておき、鋤き込ませたわけです。

 幸いなことに、妻が見逃していたゴーヤが熟れて真っ赤な種を露わにしていたから、時代とともに、野菜の活かし方が変わったことにも気付いてもらいました。私が子どものころは、まだゴーヤは(レイシと呼んでいましたが)熟れさせて、種の周りの甘い果肉をオヤツとしてしゃぶっていました。トマトは逆に、我が国に導入された当時は、青い間に収穫して漬物などに活かしていました。

 もちろん、畝を手早く仕立て直すだけが能ではないと気付かせたくて、かつて仕立て直した畝の現状も見せました。畝の中に見残していたヒルガオの根のその後の成長具合や、畝のいわば「際ぞり」ができていなかった欠点などに気付かせ、その補修の必要性と様子を学ばせました。
 


50年来初めて見るキノコ(?)

農薬(殺虫剤)を用います

網のくびれに残っていた分で1000匹

ゴーヤが熟れて真っ赤な種を露わに