もう一度一緒に旅がしたい
 

 


 わたしは34年間にわたる給与所得者の時代に、100回をくだらない海外出張をしていますが、それらの旅をひと括りにできそうな印象を、この人は私に抱かせました。たとえていえば、それまでの海外旅行は、玄関と客間に通してもらい、それをもってその家を理解したかのような気になっていたのです。

 この私を驚かせ、目を開かせたこの人の旅のありようを、他の学会員はあまり歓迎ではなかったようです。最後の数回はたった二人きりの旅になっていました。もちろん私には不満がまったくなかったのかといえば、もちろんありました。例えば、ラオスで、名物の子豚の丸焼きを視たときです。2度と来そうにないところでしたから、試しておきたかった。

 今にして思えば、食べずじまいでよかったと思います。これだけ記憶に残っているわけですし、好奇心を即座に満たすようなことに馴れてしまえば、それこそ「罠」にはめられたような生き方になりかねません。こんなことを思いつかせたり思い出させたりする人を、失いました。