被害の再発防止を優先
 

 

 昨年7月のことです。祇園祭直前の深夜、過去に記憶がない局地的集中豪雨、1時間に80mmからの雨が降り、妻が「一過性健忘症」になっています。わが家としては予期せぬ水害をこうむったのですが、その復旧にではなく再発防止を優先して力を注いで来ました。その努力が、こんなに早く報われるとは、嬉しいような悲しいような心境です。むしろ不気味に案じている、末恐ろしささえ感じている、と言った方がよさそうだと思っています。それは、昨今の異常気象や集中豪雨は人災だ、と思っているからです。

 昨年の7月は、喫茶店があるサンクンガーデンが水浸しになり、ガーデンより一段低い人形工房も当然水浸しになってしまい、人形創作用に妻がコレクションしていた生地や床暖房の設備などが使い物にならなくなりました。またその時に、とても大勢の人を騒がせており、お世話にもなってしまいました。

 そこで、この記録がないほどの局地的集中豪雨は明日にでも繰り返しかねない人災と見て、床暖房や床材などの復旧を優先するのではなく、再発防止を優先し、治水対策を急ぐことにしています。

 ありがたいことに、学生がその何年か前から継続的に勤労奉仕に来てくれていました。その若者の力も借りて、またホームビルダーを目指している水島さんの仕事の範囲を広げたくて、直観を頼りにした治水工事を構想し、取り掛かることにしたわけです。

 井戸水があふれる問題は、既存の井戸の上に地下構造の人形工房を建てた関係で生じたことです。この問題は建設途上の1990年ごろに大雨が降り、気付かされています。そこで、自動的に排水するポンプを取り付け、その稼働を知らせる警報ベルを設置しました。その後20年目にして警報ベルが鳴り、床上浸水の事態になったわけです。

 この問題に備える対策は、水島さんにハッチを付けてもらうことで解消できるはずと踏み、実施しました。その後、まだ半年とたっていないこのたび、再び警報ベルが鳴り響いたわけです。あわてました。しかし、ハッチのおかげで深刻な問題を生じさせずに済みました。

 もちろんその後の経過を妻が徹夜で観察していますから、今後この工事に関わった水島さんと電気関係でかかりつけの中尾さんを一緒に迎え、膝を交えて検証と反省をし、打つべき手があれば打ちたく思っています。

 庭の低部には水路があり、1本の排水パイプでこの水路の水を流し去ってきました。昨年7月の大雨は、その排水能力を超えてしまったのです。とはいえ、既存のパイプを太いのと入れ替えたり、2本に増設したりする工事はとても難しいことに気付かされました。そこで、異なる方法で、2本のパイプを増設して、問題を解消させることにしたわけです。

 ですから、コンクリプールと名付けた集水装置を設け、そのプールが満杯になげば、落差を活かして自動的に水が流れ去る算段を構想しました。それがこのたび見事に役立ちました。この装置の有効性は私が検証しており、追加して打つべき手に気付かされており、これから水島さんと打ち合わせ、速やかに手を打ちたく思っています。

 予想外であったことは、山手の隣家から流れ込む水量でした。隣家はわが家より広い敷地ですが、きっと異常降雨を天災とあきらめており、公助に期待することにして自助対策を講じていないのでしょう。これも屋外装置ですから私が観察しましたが、従って90点程度のできでした。要は、ダムの機能を強化し、防衛する工夫が求められていることに気付かされました。これは学生たちにとってよき教材になると思いますから、いずれ取り組んでもらおうと思っています。この家は、庭に大量の除草剤をまきますから、この流れ込む水を阻止したい。

 残る一つの対策は、庭の北面に沿って設けた水路ですが、これは機能するに至っていません。それは、降雨量の関係だと見ています。つまり、総量は多かったけれど1時間当たりの雨量は前回ほどではなく、既存の排水能力で処理できたのでしょう。

 おそらく、1時間に100mmといったような短時間の集中豪雨時に役立つことでしょう。そうした集中豪雨が2時間も3時間も続いときに、この設備はひときわ有効性を発揮することでしょう。とはいえ、それではコンクリプールなどの処理能力を超えそうです。困ったものです。

 要は、打った手の3つが、このたびの降水程度であれば、見事に機能して、最悪の水難を避けられそうであることが分かりました。

 もっと嬉しかったことがあります。保津川の氾濫が大きく報道され、アメリカや台湾からも見舞いの電話やメールなどをもらったことですが、そのうちでもとりわけ2本の電話が嬉しかった。

 1本は、妻の「一過性健忘症」に立ち会った橘さんです。昨年の当日、橘夫妻を会食に迎えることになっていました。そこで、泥かきなどの掃除を急ぎ、予定通りに迎えました。結果、妻の異常に「これは、オカシイ」と気付いてもらえ、「そういえば」と私も気づかされています。

 このたびの橘さんには、再び妻を「一過性健忘症」にさせていないかと心配させたようですが、「大丈夫でした」と応え、胸を張って事情説明できたのです。

 もう一本は、20数年来保険問題で世話になった森本さんです。この人は、小さな損害では保険適応させてくれませんでした。今も記憶に残るのは、ある宅急便会社の配達人が、透明ガラスのドアーをぶち破った時のことです。結局、ぶち破った配達人が「自弁で済ませてほしい」と言いだし、受け入れています。その宅急便会社では事故を起こしたことがわかると、俸給減額に結び付く処分が待っているとのことでした。アイトワではドアーに目印のシ-ルを張るだけで終わっています。

 その森本さんが、水浸し事件の時は、20年余り前の工事に要した金額のほぼ全額に近い保険金がもらえるようにしてくれました。生地代など他の損害はごね得になりそうな一面もあり、あきらめています。そのようなわけで、「再び」と心配してもらえたようです。

 再発防止を優先したおかげで、これまた胸を張って「大丈夫でした」と応えられました。ちなみに、森本さんはすでに定年退職の身になっていますから、余計に胸を張れたように思います。

 だからと言って万々歳であったわけではありません。幾つかの課題が待っています。その課題を解消するために次なる豪雨が待ち遠しい、と言えばうそになりますが、不幸にしてそうなれば、その期を活かさなければいけないことがあります。

 この度は排水ポンプが自動的に作動しましたが、停電になっていたらどうなっていたか、興味津々であり、その対策です。もちろんその場合も、多分大丈夫であろうと思われる小技をきかせています。ですから、次回は、その小技が本当に有効に作動するのか、実験したく思っています。