ハッピー
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いよいよ足元が怪しげになりました。今週初めから、鎖を解きました。鎖につながれたハッピーの姿を見た最後は、阿部ファミリーになったわけです。この家族は(母とその子の関係の)2頭の愛犬を飼っていますが、そのまだ若い子の方を私たちは思わず「ハッピー」と呼んでしまいました。このたび、その気持ちを阿部ファミリーにも理解してもらえました。 問題は、その年齢差です。2人のお嬢さんにも、その歴然たる差に気付いてもらえたはずです。そして、阿部ファミリーのハッピーによく似た愛犬も、いずれはハッピーのように老いてしまうのであろうということを分かってもらえたのではないでしょうか。 あれほど人覚えが出来ず、毎月見えるガスや電気の検診者を吠え立て、震え上がらせてきたハッピーが見る影もなく、鎖を外しても大丈夫なハッピーになってしまったわけです。 ハッピーが全盲になってから、私も大いに学ばされています。まず、ハッピーの脚が日一日と弱ったことです。散歩をしても、あまり歩きたがらなくなりました。あれほど散歩好きで、かつては脱兎のごとく走り出していたハッピーが、散歩自体を億劫になったのです。これは悪循環のはじまりです。刻々と足が弱まっています。 そこで、今週初めから私は鎖を外したわけです。当初は「迷子にしませんか」と不安におもって妻も、すぐさま「放してもらったよかったね」とハッピーに語りかけていました。気が向いたときにハッピーが立ち上がり、一歩でも二歩でも勝手に歩けるようにしたわけです。 語れば長い話になりますからここでは省きますが、これだけは記録しておきたい。期待していた以上に立ち上が、ふらふらと移動していることです。そしてその移動のありように私は(己が全盲になった場合に思いを馳せ)大いに学ばされています。 これまで飲んだことがない甕にたどり着き、水を飲みました。リュウノヒゲ(龍の髭)という草が茂った上で寝そべっていました。暖かいのでしょう。私たちが長時間にわたって目の届かぬ所(妻は人形工房、私は畑)にいた間は、目立ちにくいところを選んだかのようにして寝ていました。その姿は、初代のハッピーが老衰になった時のありようを思い出させました。あるいは、大きなアオダイショウが(白内障?で)目を真っ白にしたことがありましたが、その折の日当たりが良い目立たぬところで陣取っていた姿も思い出させました。 ハッピーは「物覚えが良い(目が見えていた間に甕の位置などを記憶していた)のだろうか」と妻に問いかけたぐらいです。妻は言下に「悪いです」と応えました。散歩係として、同い年の金太とも比較しての断言です。ただしハッピーは、金太と違って本能的な行動には格段に富んでいました。たとえば、セミが間違ってハッピーの目の前に落ちると、すかさず飛びついて食べていました。おそらく、雌犬と出会えば(かつてのコロほどではないでしょうが)、われを忘れてその尻を追おうとしたのではないでしょうか。挙句の果ては、自分の糞もかぎ分け(栄養分を嗅ぎ出せたときは、と思うのですが)食べることさえありました。 これから、ハッピーは認知症になるのか、ならないのか、それが心配です。ハッピーよりはるかに高齢であったケンは認知症が現れていました。そのケンの晩年よりも、ハッピーは耳が遠くなっているように思われます。 問題はこれからです。ハッピーの余命の問題です。なんとか私たちのために安らかに1日でも長く生きてほしく思っています。ですから、ケンの場合と同様に(中国やエジプトなどの古代の王も同じ気持であったのかもしれませんが)骨を収めるところを生前に用意してやろう、と考え始めています。もちろんケンの側で、歴代の犬が眠る墓所の一角です。 ともかく人にも他の犬にも優しかったケンは、その永眠の穴を(私が生存中に掘り始めたものですが)書生であった伸幸さんに掘り足してもらい、眠っています。犬は人をよく見ます。ですから、できればハッピーの墓穴も、伸幸さんに掘ってやってもらいたいものだ、とせつに考えています。近くまた里帰りをしてくれそうな連絡が入っていました。 |
いよいよ足元が怪しげになりました |
鎖を解きました |
甕にたどり着き、水を飲みました |
龍の髭という草が茂った上で寝そべっていました |
目立ちにくいところを選んだかのようにして寝ていました
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